海外在住の相続人が居る場合の相続手続き

6月が目前となりました。今年ももう半分過ぎたのかと思うと、時間の流れの速さに驚かされます。

さて、最近私の周りでは海外在住の家族がいる方が増えており、改めてグローバル化を感じています。という訳で、今日はこんなお話しを。

海外に相続人がいる場合、相続手続きはどうなるかというと、端的に言えば通常の相続手続きよりも大変になります。
何故なら、相続手続きは住んでいる国に関わらず相続人全員の協力が必要だからです。

日本国籍の方が亡くなった場合、相続手続きは日本の法律に則って行われます。
相続手続きには、亡くなられた方と相続人の関係を証明する書類や、相続人がご本人である事を証明する書類が必要になります。つまり、戸籍や印鑑証明書が必要になる訳です。そして遺産分割協議書への署名押印も必要です。
それでは、海外在住者の証明書類はどこで入手するのでしょうか?

その方が日本国籍の方なら、日本領事館で入手します。ご本人が窓口の領事館職員の目の前でサインする事が必要になる為、郵送での手続きは出来ません。必ず領事館まで行かなければなりません。もしくは、日本に帰国して必要書類を入手する事になりますが、そもそも海外在住の方ですので、印鑑証明書の入手が出来るとは限りません。実際、自治体によって対応がバラバラです。当事務所のある奈良県生駒市では一定の条件をクリアすれば対応可能ですが、東京都のある区では不可であったという話しを聞いています。

外国籍の方の場合はというと、そもそもその方の戸籍はないので領事館案件ではありません。ではどうするかというと、例えばアメリカ人の場合は、相続人が公証人と共に書類にサインする必要があります。因みに、アメリカには戸籍制度がありません。

ところで、それなら海外在住者が相続放棄をしていたら問題ないのでは?と思われる方は多いと思います。
例えば、ご家族が海外に移住される時に「今後、親が亡くなった時には相続放棄するよ」と言われているようなケースです。これは、相続放棄になるのでしょうか?ならないのでしょうか?

答えは、「相続放棄にはならない」です。
まず、相続放棄とは、被相続人(例えば親御さん)が存命中は出来ません。親御さんが生きているのに、放棄すると言うのは、意思表示をしたに過ぎません。
また、もし親御さんが亡くなられた時に、他の相続人に対して「相続放棄します」と言ったとしても、それは相続放棄にはなりません。相続放棄とは、口頭で言えば成立するものではなく、自分に相続が発生した事を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければ成立しません。

相続というと、プラスの財産を考える方が多いと思いますが、相続にはマイナスの財産も含まれます。例えば、借金です。もし家族に口頭で伝えるだけで相続放棄が成立するのなら、「放棄します」と口頭で言っただけで借金から逃れられる事になります。社会通念上、ありえませんよね。手続きは何によらずそうですが、公的に証明できる書類が必要なのです。
なので、相続人の特定には亡くなられた方の出生から死亡までの全ての戸籍が必要になってくる訳です。

というように、相続手続きを行う上での必要書類の収集に、海外在住者が居る場合は日本在住の相続人だけの手続きよりも、時間も費用もかかります。
ではどうすれば良いのか。解決方法は「遺言書の作成」です。
遺言書を作成して遺言執行者も記載しておけば、遺言執行者が単独で相続手続きを行う事が出来ます。

海外在住者が居る場合、相続手続きに必要な書類がなかなか揃わない、連絡がつかないというような理由で相続手続きが滞る可能性があります。相続人全員の負担が増えますし、手続きをしたくても出来ないという状況に陥る可能性があります。(因みに、不動産の相続登記は令和6年4月1日から義務化されます。相続登記をせずに相続から3年が経過すると、10万円以下の過料の対象になります)

相続手続きの複雑・困難化を回避するには、遺言書の作成が必要です。
ご家族に海外在住者がいらっしゃる方は、ご家族の為にぜひ遺言書の作成をご検討ください。

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