「家の相続」の注意点
「長男が家を継ぐべき」という考えは、昭和の頃には良く耳にしました。今も家は長男に継がせたいという方は一定数いらっしゃると思います。
そう考えた方が「家は長男に、預貯金等は全て妻に相続させる」という遺言書を作成したとしましょう。
夫は妻が生活費に困らないようにと思ってこの内容の遺言書を作成しました。家の持ち主は長男でも、妻は今までと同じように家に住み続けられるから大丈夫だと考えて。
果たして本当に安心でしょうか。妻は本当に問題なく一生住む事が出来るのでしょうか?
長男が子のいない独身者であれば、もしもの事があっても母親は長男の相続人ですので問題は起こりにくいと言えます。しかし、長男に家族が居るとそうとは言えなくなってきます。
長男に妻と子が居ると、長男の相続人は妻と子です。母親は該当しません。
もし長男が母親より先に亡くなったとしたら、家は妻と子が相続する事になります。家を売却するので出てください、と言われる可能性があります。出てくれと言われた妻は法的に闘う事が出来ません。こうして住む家を失った人がいるという話を聞いた事があります。
という訳で、ご自宅に配偶者が継続して住まわれる場合には、全てを配偶者に相続させる、もしくは法定相続分等、部分的にでも相続させるという事が生涯安心して住む為の保険になります。
これは、遺産分割協議をする場合の注意点でもあります。ゆくゆくはお子さんが相続するのだからと、お子さんに家を全て相続させる事にすると、同じ事が起こりえます。
子に子供(孫)がいる場合、親は子の相続人ではない事を覚えておいてください。
居住している家の相続が発生した時には、全ての権利を手放さないようにする。これは大事なポイントです。
家の相続人は、家の名義人に基づいて決まります。今住んでいる人が基準ではありません。
先祖代々の家に長男家族が住んでいたとしても、家の登記が父親のままになっていれば、父の配偶者である母親、兄弟姉妹全員の持ち物であるという状況です。遺言書が無ければ遺産分割協議をして全員が同意しなければ、家全部が一人の物にはなりません。
調べてみたら、おじいさんの名義のままだった場合、数次相続となりますので、相続人の数はもっと増え、話し合いが大変になります。おじいさんの妻子は当然相続人ですし、その中に亡くなっている人が居れば、亡くなった人の子が代襲相続します。場合によっては、子の配偶者も相続人になります。
以前書きましたが、親御さんに資金提供を受けて購入した家の名義に親御さんが含まれている場合も当然の事ながら親御さんの相続人全員に権利があります。(こちらをお読みください)
例えば、家の2/3が子、1/3が親の名義だった場合。親が亡くなり法定相続人が兄弟二人だったとしましょう。
その場合、親の1/3を子二人が相続する事になりますので、各1/6を相続する事になります。住んでいない人の権利1/6については遺産分割協議を行って、居住者の物とする事は当然出来ますが、その分他の相続財産の分配でバランスを取るのが一般的だと思います。また、もし他に遺産がない場合、1/6を買い取る(換価分割)という事になるかと思います。
ところで、実家住まいの未婚者も増加しています。ご両親が亡くなった後、一人っ子であればご両親の持ち家をそのまま相続する事になりますが、兄弟姉妹が居る場合、家の持ち主の親御さんが同居の子に家を相続させるという遺言書を残さない限り、言うまでもなく兄弟姉妹平等の相続となります。兄弟姉妹で遺産分割協議をする事になります。親御さんが亡くなられた後、未婚の子が実家を出る事になるのはよくある話しです。
家の名義というのは相続上大切なものです。住んでいる人が居る場合、その人が家を相続するのが居住者にとっては安心できる、トラブルが起こりにくい相続となります。また、相続発生時には相続登記をせず放置しない事も大切です。(令和6年から義務化されました)
とはいえ、残された配偶者の生活資金が足りなくなった時、家の売却が必要になる事があります。持ち主が認知症を発症すると家は簡単には売却出来なくなります。親名義の不動産を子が売却する事は出来ません。その可能性も考えておく必要があります。(不動産の売却についてはこちらをお読みください)
今の日本では、不動産を相続したくないという方が増えていると聞きます。
家の相続というのは色々な考慮が必要で、本当に難しいものだと思います。住まいであり、資産であり、管理に手間と費用がかかり、場合によっては負動産と呼ばれるのが不動産です。
遺言書作成、相続についていつでもご相談ください。