8050問題を考える
「8050問題」という言葉をご存知でしょうか。ニュース等で聞いた事がある方も多いかと思いますが、親が80代、親に扶養されている引きこもり状態の子供が50代である事を、通称「8050問題」と呼びます。
いじめ等が原因で不登校になりそのまま今に至る方、就職した後ストレスなどから精神疾患などの病気になってしまった方、怪我やアレルギー等が原因で外出が困難になった方など、長年家に引きこもる状態になった原因はさまざまです。
2016年に内閣府が行った調査では、15歳から39歳までの引きこもりの数は54万人でした。その上の世代の調査は行われていませんが、全体では推定100万人とも言われています。
何故、「8050」が問題として取り上げられているかというと、親が80代と高齢になり、子供の生活を支えられなくなるケースが増えて来ているからです。
親御さんが亡くなられた時、扶養されている子の生活は一変します。
まず、親の年金が止まります。そして子は50代でまだ年金を受給できる年齢ではないので、年金受給年齢になるまでの間の生活費をどうするか、という問題が出てきます。成人している子の場合、配偶者と違い遺族年金を受給する事は出来ません。残された遺産が十分にあり、親の遺産を切り崩して年金受給年齢まで繋ぐ事が出来れば良いですが、そうはいかないケースが多いのではないでしょうか。
兄弟姉妹がいる場合、扶養されていた人だけが親の遺産を全て相続するという事にはなかなかなりません。全ての子には法律で定められた「遺留分」があります。
被相続人の遺言書が無ければ「遺産分割協議」を行う事になりますが、引きこもり状態の方とご兄弟姉妹が話し合う事はなかなか大変だと思います。
そして、話し合いがつかない限り、相続手続きは出来ませんので、扶養されていた方に貯金や収入がないと、たちまち生活費にも困る状態に陥ります。
また、その人が一人っ子で相続人がその人しかいなかったとしても、長年人との接触を避けてきた人が、役所や銀行等での手続きをする事は、ハードルが高いと言えるでしょう。
どこに何を提出すれば良いのか分からないけど人に聞けない、という可能性も高いと考思います。また、色々な問題を抱えられていて外出が出来ないという方の場合、手続きに行けない可能性もあります。
では、どうすれば良いのか。難しい問題ですので、これで万事解決!とはいきませんが、まずは遺言書を書き、遺言書の中で遺言執行者を指定する事をお薦めします。遺言書を書く事は親御さんが単独で行う事ですので、書こうと思えばいつでも書く事が出来ます。
遺産をどう分けるのかを決め、その手続きをしてもらう遺言執行者を決めて遺言書を残せば、少なくとも、親御さんが亡くなった後、遺産はあるのに相続手続きが出来ない事による生活費の枯渇は防ぐことが出来ます。ずっと遺産で生活していく事は出来ないにしても、ある程度の生活費があれば今後の生活を考えていく為の時間を稼ぐ事が出来ます。
お子さんが一人っ子の場合は、遺言執行者を決めておけば自筆証書遺言でも法務局の保管制度を利用すれば問題は特に生じないかと思いますが、ご兄弟姉妹がいらっしゃる場合は公正証書遺言をお薦めします。
揉める要素がある場合は、とにかく公正証書遺言です。また、相続手続きを行う遺言執行者は、親戚や相続人の中の一人ではなく、遺言作成に携わった行政書士などの専門家の第三者を指定するのが良いでしょう。
遺言書の作成に携わった者であれば、ご家族の状況と遺言者のご意向を把握しています。そして専門家ですので、短期間で確実に相続手続きを行う事が出来ます。
相続手続きには、現段階では相続税以外、法的期限がありません。(令和6年から相続登記は期限が定められます)
それ故、相続人の話し合いは長期間になりがちです。そして長引けば長引くほど、扶養されていたお子さんの生活はどんどん苦しくなっていきます。困っていても、なかなか兄弟姉妹にその旨を伝えられない人もいます。また、手続きに入れたとしても、遺言書がなければ必要な書類も増え、手続きのハードルも上がり時間もかかります。
「遺言書」というと、財産が多い人だけ関係があると思われがちですが、「扶養家族」がいる人は資産の額に関係なく、必要なものと考えます。扶養されていた相続人にとって、相続財産の凍結は、生活費の凍結です。死活問題になる場合があります。
8050問題で悩まれている親御さんは、まず遺言書作成を検討してみてください。そして、専門家に相談してみてください。遺言書作成をきっかけとして人に相談してみたら、悩みを少し軽減できる手立てが、何か見つかるかもしれません。ぜひ相談してみてください。