相続の話し合いについて
今年も残すところ10日余り。気づけばもうクリスマスです。本当に早いですね。
今年は、年末年始に帰省される方も多いと思います。親族が顔を合わせる事の多いこの時期ですので、本日はこんなお話しを。
日本ではまだまだ遺言書を書かれる方が多くはありません。
例えば、お子さんが2人いるご家庭で、お父様が亡くなられてお母様が未亡人となったとします。そして、遺言書が無い場合、相続の分配は民法が定めた「法定相続分」は配偶者が1/2、子が1/2(二人で1/2、一人頭1/4です)です。
この配分とは違う内容にする場合に必要になるのが「遺産分割協議」であり、「遺産分割協議書」です。
例えば、話し合いにより残されたお母様がお父様の遺産を全て相続されて、お母様が亡くなられた後にお子さん二人が相続するという事で全員の合意があったとします。
この場合、不動産の名義変更(相続登記)や銀行の手続きには「遺産分割協議書」が必要になります。
(因みに、とりあえず法定相続分で手続きをして、後日再分配すればいいとは考えてないでください。贈与税を課税される可能性が大です)
この話し合いの事を「遺産分割協議」と呼びます。この協議は、「相続人全員が揃って行う事」が必要です。一人でも欠けると、その協議は「無効」となります。
また、「遺産分割協議書」には「相続人全員の署名、押印」が必要です。全員が合意をしていないと、署名も押印も揃いませんよね。
ここで大切になってくるのが「相続人の特定」です。ご家族が認識している人だけが法律上の相続人ではない可能性があります。前婚の子、認知した子、代襲相続した相続人、子の無い夫婦の法定相続人など、民法の知識がないと相続人の認識が不完全だった、という事がよくあります。
という訳で、最初に行う事は、相続人特定の為に亡くなった方の出生から死亡までの全戸籍を役所から取り寄せ、相続人の確認をする事です。これは戸籍収集の手間と民法の知識が必要な事から、私たち行政書士等がご依頼を受ける事が多い作業です。
ここで気になるのは、「相続発生から何年以内に遺産分割協議はしないといけないのか?」という事ですよね。遺産分割協議に、明確な期限はありません。時効がありません。ですが、2024年4月から相続登記は義務化されますし、2021年4月の改正により特別受益と寄与分の主張は10年以内と決められたので、実質上は不動産があれば3年になったと言えます。また、不動産がない状態で相続人に主張がある場合には10年となったと言えます。(詳しくはこちら)
さて、そんな枠組みの話し合いですので、相続人の間で揉め始めると、長期間決着がつかないという事がしばしば起こります。相続人だけで話し合いがつかなかった場合、家庭裁判所での遺産分割調停へと進んでいく訳ですが、揉めた段階で弁護士案件となります。
繰り返しになりますが、遺産分割協議は相続人全員が揃って行わなければなりません。全員が揃わないで行われた遺産分割協議が行われる理由で考えられるのは次のパターンです。
①意図的に、一部の相続人を他の相続人が参加させないで協議を行った
➁相続人の特定を誤って行い、漏れがあった事に気づいていなかった
この場合はどうすれば良いのでしょうか。
①の場合は、相続人を把握していたのにわざと協議に参加させなかったという事になります。この場合、そもそもその「遺産分割協議」は「無効」です。除外された相続人は、やり直すように他の相続人にまずは主張する事になります。それでも協議のやり直しに応じて貰えない場合「遺産分割協議無効確認訴訟」を提起する事が出来ます。このような場合、早い段階で弁護士に相談する事をおすすめします。
➁の場合は、遺産分割協議を行った相続人が、他にも相続人が居る事を全く知らなかったという状態ですので、「相続回復請求」を行う事になります。これもまた弁護士案件です。
遺産に不動産があれば遺産分割協議書がなければ手続きが出来ませんが、預貯金のみの場合、銀行で正式な手続きを行わずATM等で引き出して終わりとする人も無いとは言えません。また、いわゆる箪笥貯金は2021年の調査によると、日本全国では総額107兆2394億円もあるそうですので、記録のないお金も多く存在していると思います。しかし、自分の相続分を超えて他の相続人の合意無く無断で預貯金を引き出した、あるいは持ち出した人は、他の相続人から不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟等を起こされる可能性があります。
行政書士に出来る事は、相続人の調査と特定、相続財産の調査、相続人全員で合意した遺産分割協議の内容をもとに遺産分割協議書を作成する事です。揉め事になった時点で、それは弁護士案件になります。
遺産の分割を巡って家庭裁判所に持ち込まれた審判・調停の件数は昨今、毎年1万5000件前後となっています。20年前の1.5倍の増加と言われています。
裁判所に持ち込まれた案件の約3割が1000万円以下、5000万円以下が4割です。つまり、揉めている人の約7割が5000万円以下の相続だという事です。これを見ると、誰にでも争族は起こりうるという事が分かると思います。
相続で揉めると、精神的にも金銭的にも大きな負担がかかります。それを解決する方法としては、生前に遺言書を作成する事です。これしかありません。
法律上問題のない、家族がもめない遺言書を作成して残しておく。そして、遺言書が残されていなかった場合には、全員で残された遺産を確認し、良く話し合う。
それには、日ごろからの家族間のコミュニケーションが大切だと思います。
先延ばしにしているうちに、書けなくなるのが遺言書です。遺言書に遅い、はあっても早いは無いと思います。
遺言書を作成しようと思われましたら、いつでもご相談ください。