アメリカ国籍の相続人がいる場合
私のまわりにはお子さんが国際結婚されている方や、海外在住の方が多数いらっしゃいます。近年海外留学者数は減少していると聞きますが、国際化は進んでいると感じています。という訳で、今回はアメリカ国籍の方が相続人に含まれる場合の相続について取り上げたいと思います。
最初にお伝えしたいのは、アメリカには戸籍制度はないという事です。日本で相続というと、戸籍の収集からスタートすると言っても過言ではありませんが、アメリカには戸籍制度がありません。
亡くなられた方が日本人であれば、日本の法律に基づき相続手続を行っていく事になりますので、どうするのかが問題となります。
日本人の被相続人(亡くなられた方)の相続人がアメリカ人というケースで考えられるのは主にこの二つだと思います。
一つ目はお子さんがアメリカに帰化された。二つ目はお子さんがアメリカで結婚されてお子さん(お孫さん)が生まれた後、お子さんが亡くなられた。つまりお孫さんが相続人という二つのケースだと思います。(国際結婚でなくてもアメリカで出生していればお孫さんはアメリカ国籍を取得する事が可能です)
この二つのケースの他に考えられるのは、親御さんの一人が亡くなった後、遺言書が無く相続手続を行わないうちに国際結婚をしているお子さんが亡くなった場合です。この時には、親御さんの相続人は国際結婚したお子さんですので、お子さんの配偶者と子も親御さんの相続人に該当してきます。分かりにくいと思いますが、お子さんの相続分はその配偶者と子が引き続ぐという事です。
相続は、遺言書があればその内容の通りに行い、遺言書がなければ相続人全員で話し合い遺産分割協議書を作成し、手続きを行っていく事になります。
遺言書があり、遺言執行者が指定されていれば手続きは執行者が単独で行えますので相続手続がスムーズです。問題になるのは、遺言書がなく、遺産分割協議書を作成する場合です。
まず、アメリカ国籍の相続人に連絡を取り、相続の発生と分配について話し合います。
互いに言葉の壁がある場合、ここで既に手続きは困難になってきます。また、日本とアメリカでは相続についての法律が違いますので、その説明から始める必要があります。
合意に至れば、日本側は「遺産分割証明書」を作成し、アメリカ側では「遺産分割協議のための宣誓供述書」を作成します。
【遺産分割協議のための宣誓供述書とは】
宣誓供述書とは、自身の供述を公証人の前で誓い、公証人の面前で署名する書類です。裁判などにも使われます。戸籍と遺産分割証明書の役割を兼ねる文書がこの「遺産分割協議書のための宣誓供述書」です。戸籍取得よりも費用がかかります。
日本で書類を作成し、アメリカ国籍の相続人にその書類を持って公証役場に出向いてもらい、宣誓供述書を完成させて日本に送付してもらう事になります。当然のことながら、全て英文で作成します。
受け取った後、相続登記を行うなどの相続手続の際には、宣誓供述書の日本語翻訳も提出する必要があります。(法務局から提出を求められます)
ところで、アメリカ国籍のお孫さんが相続人になっている場合には、もう一つ入手が必要な書類があります。それは、お孫さんの親御さんである方の「死亡証明書」です。(代襲相続の発生を証明する為)
【死亡証明書とは】
日本であれば亡くなられた場合、戸籍に死亡日と「除籍」と記される事によって死亡を確認する事が出来ますが、前述の通りアメリカには戸籍制度がありませんので死亡を証明する書類として「死亡証明書」があります。日本からの入手はなかなか困難ですので、お孫さんに入手を依頼する事になると思います。(亡くなられた時に入手し、お孫さんが保管されている可能性は高いです)
こちらも、相続登記を行うなどの相続手続の際には、宣誓供述書の日本語翻訳も提出する必要があります。(法務局から提出を求められます)
というように、相続人にアメリカ国籍の方がいらっしゃる場合、相続手続には長い時間がかかります。年単位になるケースが多いのではないでしょうか。
ここまで読んで頂くとお分かり頂けたと思いますが、外国籍の親族がいる場合、遺言書の作成は必須だと思います。
そして、遺言書の作成が無理であれば、少なくとも連絡先を入手しておく事をおすすめします。
当事務所では英語圏の相続人がいらっしゃる場合、通訳翻訳者と連携して対応していますが言葉の壁により時間も費用もかかります。
国際結婚をされたお子さんのいらっしゃる方は、ご家族の為にぜひ遺言書の作成をお考えください。
●追記●
行政書士は、「事実証明に関する書類」の作成と相談を業としています。
外国籍の方に日本の相続についての法律や、遺産の内容と必要な手続きについての説明は行えますが、弁護士以外代理人にはなれませんので、相続についての話し合いは相続人同士で行って頂きます。交渉が必要な場合は弁護士案件となります。
当事務所では相続手続のご依頼を受けた方の、英語圏の方とのやりとりに必要な通訳翻訳についてのご依頼を受ける事が可能です。
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