「子」の相続

お盆休みが終わりました。今年は帰省された方も多かったのではないでしょうか。

私は相変わらず家でドラマと映画漬けでした。休み中に『ナイブズ・アウト 名探偵と刃物の館の秘密』という映画を、主演のダニエル・クレイグと監督&脚本のライアン・ジョンソン(スターウォーズの監督)に惹かれて見たのですが、今日はその映画から派生して「子」の相続のお話しをしてみましょう。

映画のネタバレはしたくないので、思いっきりざっくり映画の内容を話すと、人気ミステリー作家の死と子の相続の物語です。舞台はアメリカです。そして、この話は日本では成り立ちません。何故なら、日本には「遺留分」があるからです!

海外の映画やドラマを見ていると「遺産相続」の話が結構出てきます。貰えると思っていた子が一銭も貰えず争いが起こるというようなお話、良くありますよね?あと、アメリカではペットに相続させるという話しも出てきますが、いずれも日本では成立しません。何故なら相続に関する法律が違うからです。
では、日本の「子」の相続は法的にどうなっているのでしょうか?

●子の法定相続分●
子は、親との続柄(長男、次男、長女、次女等)に関わらず、法定相続分は平等です。
そして「子」は法律上、親が婚姻関係にある「嫡出子」と、婚姻関係にない「非嫡出子」に分けられています。
親が婚姻関係にない、内縁関係や不倫関係で誕生した「非嫡出子」であっても、父親が「認知」すれば、相続における「法定相続分」は嫡出子と平等です。(2013年9月5日民法改正)そして、非嫡出子が認知されると父親の戸籍に認知の記録が残ります。(認知後、転籍、戸籍の改製が行われると、新しい戸籍には記載されません)

例えば、父親が亡くなり、嫡出子と非嫡出子の2人が法定相続人だった場合、1/2ずつ遺産を相続する事になります。そして、子には「遺留分」がありますので、もし「非嫡出子」に相続させないという遺言書が残されていたとしても、非嫡出子は遺産の1/4の額を「遺留分侵害額請求権」により請求する事が出来ます。

一方「認知されていない非嫡出子」に相続は認められていません。
念のための補足ですが、「離婚した夫婦の子」は「子」であり続けます。ですので、例えば前妻の子と現在の婚姻の子は平等の相続分となります。

●連れ子の相続●
日本では離婚した人の約半数が再婚していると言われています。お子さんのいる方が再婚した場合、当然相手の方と子に血縁関係はありません。つまり、相続人にはならないという事です。
具体的な例をあげると、シングルマザーが再婚した場合、子にとっての新しいお父さんが亡くなった時、子は当然には相続人にはならないと言う事です。

これは案外盲点かもしれません。連れ子に遺産を残したいと思ったらどうすればよいのでしょうか。次の方法のどちらかを選ぶ事になります。

①父と子が養子縁組をする
➁父が遺言書に、子に財産を遺贈すると書く

①の場合、子は相続人となります。➁の場合、子は相続人ではなく受遺者になります。相続人である子には遺留分がありますが、受遺者には遺留分がありません。確実に遺産を渡したい場合は、養子縁組を考える方が良いでしょう。

●子の遺留分●
さて、話しは冒頭に戻り「遺留分」の話しです。日本特有の法制度のようですが、「直系相続人」には「遺留分」が認められています。直系以外では、配偶者にも遺留分を認めています。
直系とは、亡くなった人の「親、祖父母」(直系尊属)と「子、孫」(直系卑属)を指します。相続において「子」は最強(と、個人的には思っています)です。「子」がいれば、直系尊属に相続自体、発生しません。ですが、子がいなければ、配偶者が居ても、親(親がいなければ祖父母)にも相続が発生します。

遺留分は、まず「相対的遺留分」を計算し、その上で「個別的遺留分」を計算する事によって算出します。遺産の半分が「相対的遺留分」となり、それを更に法定相続分で分割します。具体例を挙げてみましょう。

<遺産が2000万円で相続人が子2人の場合>
法定相続分は平等に1/2ずつですので、法定相続分は1000万円ずつとなります。では遺留分はどうなるのでしょうか。
「相対的遺留分」は遺産の半分ですので、1000万円。「個別的遺留分」は子2人なので1/2で相対的遺留分の額を割って、500万円。これが、子が主張出来る「遺留分」です。

<遺産が2000万円で相続人が配偶者と子2人の場合>
法定相続分は、配偶者は1/2、子は全員で1/2になりますので、子二人で分割して一人あたり1/4となります。配偶者は1000万円。子は500万円ずつが法定相続分です。次に遺留分をみてみましょう。
「相対的遺留分」は遺産の半分ですので、1000万円。「個別的遺留分」は、相対的遺留分を法定相続分で割ります。妻は1/2なので500万。子は全員で1/2なので、500万を更に2人で割って、250万円が一人頭の「遺留分」です。因みに、遺留分は当事者が主張しなければ、貰う事は出来ません。

上記のように、「子」は常に相続人になりますので、「子」の特定は慎重に行う必要があります。それ故、検認が不要な遺言書が無い場合、相続登記や金融機関等での相続手続きを行う為に故人の「出生から死亡までの戸籍謄本」が必要となるのです。これは公的な書類による「子」の特定、確認を含む、法定相続人の確認の為です。
親御さんが亡くなられて、遺言書が無かった場合には、遺産の分配について相続人全員の話し合いとなります。これが遺産分割協議です。

戸籍を取り寄せてみたら驚くべき事実が発覚し、会ったことのない兄弟姉妹が存在していたとしたら。相続は大きく変わってきます。そして、遺産分割協議は相続人全員で行わなければ無効ですので、相続人が一人でも欠けていたらやり直しとなります。会ったこともない相続人を探すところから始めるとなると、当然の事ながら相続手続きは長引くでしょう。

因みに、子は親の出生から現在までの戸籍を単独で取り寄せる事が出来ます。親の委任状等は不要です。各役所のホームページにある申請書に記入して申請すれば、郵送して貰う事も可能です。
その結果、衝撃の事実が発覚する事があるかもしれませんし、その結果について心のケアをする事も私には出来ませんが(遺言書作成のお手伝いはもちろん出来ます)、どうしても気になる方は取り寄せてみる事は可能です。とだけお伝えして、今回は終わりたいと思います。

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