介護と遺産相続

今回は時折ご質問を受ける「介護をした相続人は、他の相続人より多く相続出来るのですか?」という件についてお話しをしたいと思います。

例えば、夫を亡くした母親と、姉妹の3人家族がいたとします。姉は結婚し、現在は遠く離れた場所に住んでおり、妹は独身で母親と一緒に父親が残した実家に住んでいました。
母親が高齢になり、介護が必要となりました。姉は物理的に遠い場所に住んでいるため、同居している妹が中心となって母親の介護をする事になりました。

数年に渡る介護の後、母親が亡くなり相続が発生しました。母親は遺言書を残さなかったため、姉妹は話し合いで相続分を決める事になりました。さて、ここで問題です。母親の介護をした妹は、姉より多く相続する事が認められるのでしょうか?

まず、遺言書が無い場合の相続手続きは、どう分けるのかを相続人全員で話し合い「遺産分割協議書」を作成する必要があります。金融機関でも不動産の相続登記にも手続きには「遺産分割協議書」は基本的に必要です。とにかく話し合ってどう分けるのかを決める事になります。

姉妹2人が相続人の場合、法定相続分は各1/2です。例にあげたケースで行くと、妹は実家暮らしでしたので、法定相続分の通りに分ける事になった場合、家の評価額と同等の預貯金を母親が残していなければ、場合によっては家を出なければなりません。家しか残らなかった場合、家を売却して売却益を姉妹で折半するというのが一般的かと思います。

ここで問題になるのが「介護をした事をどう評価するのか」です。
遺産分割協議は、当事者間で折り合いがつけば民法上の相続分を変更する事に何の問題もありません。姉が母の介護をしてくれた妹に感謝して「家はあなたが引き続き住んでいいからね。預貯金だけを折半しましょう」と言ってくれれば問題は生じないかもしれませんが、そうはならないケースが多いと思います。場合によっては、あなたは同居している間、親に生活費を出して貰っていたのだから、私の方が多く相続させてもらいますと言われるかもしれません。

「介護をした人が多く相続出来る」という事を、民法では「寄与分」があると言います。「寄与分」とは亡くなった人の財産の維持、または増加について「特別の寄与」をした場合、その貢献度合いによって相続財産を増やすというものです。

妹が介護をした事により、具体的にどれぐらい親の介護費用が軽減できたのか、相続財産の減少を押さえる事が出来たのかを明らかに出来なければ「特別の寄与」にはなりません。

妹は基本的に「無償で介護」していなければなりませんし、「特別の寄与」ですので、子として親の面倒をみるのはあたりまえと一般に考えられる程度の療養看護は該当しないとされています。通院に付き添った、洗濯をした、食事を用意したというような身の回りの世話は該当しません。民法では親子間には扶養義務があると定められているため、子が親の面倒を見るのは当たり前と判断されます。「寄与分」というのは、それ以上の事をしている場合に認められます。

例えば、同居している母親の生活費を全て妹が負担していた、母親の介護の為仕事を辞めて母親の療養看護につきっきりで専念していた、母親のローン(借金)の返済を全額妹が負担したというような事が、特別な寄与として認められるものとなります。

基本的に、相続分は介護をしてもしなくても、兄弟姉妹の場合は人数分で割ったものとなります。ご両親が亡くなっていれば、姉妹2人なら各1/2、3人なら各1/3です。

話し合いにより、他の相続人が「寄与分なんて認めない」と言い、介護していた当事者はどうしても納得がいかず闘う事を選ぶと、最終的には裁判を起こす事になります。裁判を起こすには、寄与分を主張する為の具体的な裏付け資料が必要となります。それが無ければ相続人や裁判官を説得する事が出来ません。

介護に何時間費やしたのかの記録や、母親の代わりに支払いをした時の領収書等が必要となってきます。客観的に判断できる材料の収集、蓄積が大切になる訳です。ですが、資料を集めたところで、過去の裁判記録を見てみると、裁判所が寄与分を認める事はなかなかないようです。
という訳で、親の介護をしたら当然に多く相続出来るという事はなく、主張したところで認められるのは難しいというのが現実です。

一方、介護をして貰っている人が介護をしてくれている人に多く財産を渡す事は簡単です。遺言能力があるうちに、遺言書を書けば良いのです。余り極端な内容では、かえって争いごとの種になってしまいますが、相続人が納得できる程度の分配であれば、介護をしてくれた人に感謝の気持ちを伝える事が出来ます。

その時には、くれぐれも自筆証書遺言書ではなく「公正証書遺言書」を作成してください。公正証書遺言書は、公証人(元裁判官、元検察官等)と証人2人が立ち会って作成する遺言書ですので、基本的に介護していた人が書かせた、というような疑いをかけられる事がありません

法定相続分と違う分配を行う時には、間違いなく本人が本人の意思で書いた遺言書である事が分かる事が大切です。
そして、相続人がお子さん等直系の場合、遺留分についても考慮する必要があります。遺言書作成については、行政書士などの専門家にぜひご相談ください。

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