「親」と相続

前回は「兄弟姉妹」と相続を取り上げました。「配偶者」「子」「孫」「甥・姪」については既に取り上げましたので、今回は「親」の相続についてみてみましょう。

「親」が相続人になるとは、どのような場合でしょうか。
それは、次の項目全てに当てはまった場合です。

  • お子さんが亡くなった
  • お子さんに子(親からすると孫)が居なかった

それでは、具体例を挙げてみましょう。
A家の長男が無くなりました。A家の親御さんはお二人ともご健在です。

■長男の家族構成
①配偶者と子
➁子のみ
③配偶者のみ
④独身

各パターンの法定相続人は次の通りです。

①配偶者と子が相続します。親は相続人になりません。
➁子が全てを相続します。親は相続人になりません。
③配偶者と長男の両親が相続人となります。配偶者は2/3、親は1/3の法定相続分です。
④両親が相続人となります。しかし、結婚していなくても認知した子が居る可能性はありますので子の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて確認する必要があります。認知した子が居る場合、認知された子が全てを相続し、親は相続人ではなくなります。

さて、③の場合ですが、配偶者に全てを相続させたいと思い、長男が「全ての財産を、妻に相続させる」と記した遺言書を残していたら、どうなるのでしょうか。
A家の親御さんが、「遺言書の通りにしよう」と考えれば、妻に全てを相続させる事が出来ます。
しかし、ご両親が残された配偶者に「私たちにも分けてくれ」と言い出したらどうなるのでしょうか。
民法では「遺留分」というものが定められています。直系尊属(親、祖父母、子など)と配偶者には「遺留分」が認められています。遺言書に相続させない、と書かれていても「遺留分」のある相続人がその受取を主張すると、他の相続人は拒否する事が出来ないのです。

では、具体的に親の「遺留分」をみてみましょう。

・長男の遺産 3000万円
・相続人   妻、両親の計3人

<法定相続分>
・妻 → 3000万×2/3=2000万円
・両親→ 3000万×1/3=1000万円 (一人500万円)

<遺留分>
配偶者と直系尊属の場合、遺産の1/2が遺留分の合計額となります。それを法定相続分で割ります。
ですので、遺留分の総額は3000万円の1/2、1500万円です。

・妻 → 1500万円×2/3=1000万円
・両親→ 1500万×1/3=500万円 (一人250万円)

という事で、ご両親が遺留分の受取を希望して「遺留分侵害額請求」を妻にした場合、次のような相続となります。

・妻  → 2500万円
・両親 → 500万円

余談ですが、長男が亡くなった後、妻と夫の両親の「姻族」関係はどうなるのでしょうか。何も手続きをしなければ、姻族関係は継続されますし、妻の姓もそのままです。妻が結婚前の姓に戻りたい、夫の親との姻族関係を終了させたいと思った場合には、「復氏届」と「姻族関係終了届」を市役所等に提出する事になります。この手続きをしても、妻が相続や遺族年金で不利になる事はありません。ですが、亡くなった夫のご両親との関係を良好に保つ為には、ご両親に話した上で手続きされる事をお薦めします。

と言う事で、子が居ないご夫婦の場合、親が法定相続人になるという事を覚えておいてください。そして、法定相続人がもし、認知症等を発症されている場合、遺言書が無いとなると「遺産分割協議」を行う前に、家庭裁判所による後見人の選任が必要になるなど、一気に手続きが大変になってきます。

ではどうすれば良いかというと、「遺言執行者を指定した遺言書」を作成すれば良いのです。そして、相続財産に不動産が含まれる場合、親が不動産の相続人にならないようにするのです。(不動産の相続については、相続登記、売却時の契約等が関係してくる為、後見人が必要になります)

遺言書を作成しておけば「遺産分割協議」の必要はありませんし、「遺言執行者」を定めておけば、通常相続人全員の書類の提出を回避する事が可能です。また相続人全員の書類提出の回避の為、「遺言書の検認手続き」が不要な状態にしておく事もお薦めします。法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用するか、公証役場で「公正証書遺言書」を作成すれば、家庭裁判所での「検認」は不要となります。

2022年現在、日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳です。そして人生100年時代と言われる今日この頃。親御さんの方が長生きされる場合も考えて、備える必要があるかもしれません。

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