遺言書は必要なのか?

あっという間に今年も残すところ1か月を切りました。早いですね。
さて今回は「遺言書」の「そもそものお話し」をしてみましょう。

「遺言書って本当に必要なの?」と疑問に思っている方は多いと思います。日本で遺言書を書く人はまだまだ少ない事からもそう考える方が多い事が読み取れます。
親世代にしてみれば「自分の親が亡くなった時には遺言書なんて残されていなかった。それでもどうにかなったのだから、自分も書かなくていい」という方が多いのではないでしょうか。

無くてもどうにかなる。でも無かったら相続人が大変。というのが遺言書です。
ここで一つ考えて頂きたいのは、私たちの親の世代が相続した頃と今の日本では、大きな違いがあるという事です。まず、高齢化と核家族化が進んでいる事により、相続人間での話し合いが難しくなるケースが増えています。そして、色々と民法の改正もありましたし、昔と違って銀行の相続手続きがより厳密になっているという事も忘れてはいけません。そして、独身者の増加と子供の居ない夫婦の増加も大事なポイントです。

まず、遺言書がない場合、基本的には相続人全員で集まって「遺産分割協議」を行う事になります
一人も欠けてはいけません。全員が揃わないで行われた協議は無効となります。そして「全員」が話し合える能力を有する必要があるのです。

一方、法定相続分の通りに分けるのなら、「遺産分割協議書」は不要ですが、法定相続通りの分配にしよう、という話し合いはやはり必要になるでしょうし、法定相続分通りに分配すると不動産の処分が困難になる場合がある等、問題を抱える事態も出てきます。

それでは、遺言書が必要だと思われるケースを実際にいくつか挙げてみましょう。

■法定相続人が多い場合
→全員で話し合う日程調整が難しい上に、遺産分割の話し合いに時間がかかり、場合によっては相続人間の不仲が発生する可能性がある。

■法定相続人の中に認知症等の人がいる
→認知症等が原因で話し合いが出来ない状態の相続人について、遺産分割協議に入る前に家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てを行う必要がある。その上で、他の相続人と成年後見人とが遺産分割協議を行う事になる。

■法定相続人の中にひきこもりの人がいるこちらの記事もご参照ください
協議を行う事自体が既に難しい場合もある。協議成立まで相続財産は凍結されるため、協議が長引くと故人の扶養者の生活が困窮してしまう可能性がある。

■法定相続人の中に、海外在住者、または居場所が分からない人がいる
→協議を行う事自体が既に難しく、必要書類の入手も困難になり長期化する。

■家族の仲が悪い
→協議が難航する。また、法定相続人間に問題はなくても、その配偶者が話しをややこしくする場合が良くある。

■結婚しているが子供がいない(こちらの記事もご参照ください)
→法定相続人は、配偶者+亡くなった人の親又は兄弟姉妹になるため、配偶者に全ての遺産を渡したい人は遺言書が必須。(親には遺留分あり)

■現在結婚しており、前婚の子がいる(こちらの記事もご参照ください)
→離婚をすると配偶者は相続人ではなくなるが、被相続人の子は必ず法定相続人となる。相続時には現在の配偶者、子と前婚の子が相続人として協議する事になる。
連絡先が分からない等、協議を行う事自体が既に難しい場合が予想される。

■独身者である(こちらの記事もご参照ください)
→法定相続人は親又は兄弟姉妹(亡くなっていれば甥姪が代襲相続)になる。兄弟姉妹、ましてや甥姪となるとさほど親密ではないケースが多く、相続財産の把握等が困難に。

■相続人ではない人(孫や婚姻関係にないパートナー、特定の団体等)に財産を残したい
(こちらの記事もご参照ください)
→遺言書が無ければ遺贈はできない。

このようなケースに該当する方は、遺言書の作成を検討した方が良いと思います。

今後日本で特に問題になるのは、恐らく認知症の方の相続です。
2020年の調査では、65歳以上の認知症有病率は16.7%、約602万人で6人に1人が認知症と言われています。2022年の日本人の平均寿命が、男性81.47歳、女性87.5歳ですので、相続が発生した時に、法定相続人の中に認知症の人がいる可能性は高いと言えるでしょう。

例えば、夫が亡くなった時に、妻が重い認知症だった場合。配偶者は常に法定相続人になります。遺産の大半が不動産だった場合、相続人は不動産を相続する事になりますが、重い認知症の相続人が不動産を相続すると、簡単には売却できません。子供と認知症の母親の二人が不動産を相続しても、売却は出来ません。不動産の売却は所有者全員の同意が必要で(売却したい相続人が自分の持ち分だけ売却する事は法的に可能ですが、不動産の一部を売却しようとしても買い手はなかなか見つからないでしょう)、重度の認知症の場合、「事理弁識能力を欠く常況」とされますので、法的に同意したとは認められませんし、契約能力もないとされますので、売買契約も出来ません。
という訳で、不動産の売却には(その時点でまだ後見人が定められていない場合)家庭裁判所が選任した成年後見人が必要になります。そして一度成年後見人がつくと、被成年後見人の財産管理はその後見人が行う事になります。つまり、家族の手を離れる事になります。そして成年後見人への報酬が一生必要になります。
という訳で、自分が亡くなったら自己所有の不動産を売却し、その費用で配偶者を施設に入れるようにしてあげたい、と考えている方は、専門家に相談して遺言書を作る事を強くおすすめします。

今後ますます高齢化は進んでいきます。そして相続手続きがスムーズにできない事により、遺族の日常生活に支障が出てくるケースもより増えてくると思われます。
遺言書を作るという事は、「転ばぬ先の杖」であり、家族を大切に思い、行動に移す事だと思います。
遺言書作成には遺言能力が必要です。いつか書こう、と思っているうちに時は過ぎて行きます。そして遺言書は何度でも書き直せます最新の日付の遺言書が有効な遺言書となるのです。

遺言書は、元気なうちにまずは書いてみる。そして、変更する必要が生じたら、また作り直す。一度書いたら書き直せないものではありません。最初は自筆証書遺言書を作り、後に必要が出て来たら公正証書遺言書に移行していっても良いのです。また、公正証書遺言書を作成せずとも、法務局の自筆証書遺言書保管制度という便利な制度も始まっています。もっと柔軟に考えてください。

そして分からない事があれば、いつでも当事務所までご相談ください。

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