実家の相続 ➁売却準備(前編)

前回は、空き家の管理についてみてきました。今回は実家の売却準備を取り上げます。

住まわれていた方が亡くなられてご実家に住む人が誰も居ないという事になると、最終的に売却する事になると思います。売却に必要な準備は次の通りです。

①家の所有者の確認
➁相続人の特定と相続人全員での話し合い、合意(遺産分割協議書の作成)
③相続登記
④遺品整理
⑤売買契約書等の書類を探す

それでは、個別にみていきましょう。

【①家の所有者の確認】
所有者は分かり切っている、と思われる方が多いと思いますが公的書類で調べる事が重要です。どうすれば分かるのか。それは不動産の登記簿謄本(全部事項証明書)の取寄せです。法務局から登記簿謄本を取寄せる。これがまず最初にすべき事です。

<登記簿謄本の権利部(甲区)で所有者を確認>

 ・所有者が複数人居る場合がある
 ・所有者が自分の両親ではなく、祖父母などの場合がある

特に、先祖代々の家の場合、家の名義がご両親でない可能性があります。土地と建物の名義が分かれているという事も多いです。

相続登記の義務化は令和6年4月1日に始まったばかりですので、家の名義変更がされずに現在に至る家は相当数あります。また、ご両親が購入された家でも、単独名義でない場合があります。ご両親が二人で購入された、ご両親の親御さんから援助を受けて購入された場合等は共有不動産となっています。(詳細はこちら
不動産は、登記簿に記された名義人の相続人全員に相続権があります。という訳で、まず最初に不動産登記簿の確認が必要です。

【➁相続人の特定、話し合い、合意】
家の権利者、全員の相続人を調べます。

<相続人の特定>

 ・権利者の出生から死亡までの全戸籍の収集
 ・戸籍を読み解き、相続人の特定をする
 ・相続人の中に故人がいる場合は、故人の出生から死亡までの全戸籍から代襲相続人を特定する

戸籍は、人の一生のうちに何度か作られます。本籍を移した時、婚姻した時には必ず新しい戸籍が作られます。また、行政の戸籍の改製時にも全国民の戸籍が新しく作られています。戸籍の改製は、今までに6回行われており、直近では平成6年、その前は昭和32年に行われました。という訳で、出生から死亡までの全戸籍は何通にもなります。今年3月からは戸籍の広域交付が開始したので以前より戸籍収集は簡単になりましたが、配偶者と直系以外の親族は対象外です。(詳細はこちら
直系以外の親族の戸籍を取り寄せる場合は、取り寄せた戸籍を確認して転籍前の役所から戸籍を入手していかなければなりません。

そして、戸籍から相続人を特定するには、民法の知識が必要です。ご相談を受けると、ご依頼頂いた方の認識と実際の法定相続人は違う場合が良くあります。専門家(行政書士、司法書士等)にご相談される事をおすすめします。

ところで、もし家の権利者が親御さんではなく、ご祖父母だった場合、相続人が大人数になっている可能性があります。例をあげてみましょう。

◆Aの父親が亡くなり調べたところ、家は祖父の名義だった◆
  ・祖父には子が4人いた(全員亡くなっている)
  ・Aの祖父母、両親、叔父叔母は全員他界している
  ・Aに従弟は6人いる

この場合、家の名義人である祖父の相続人は妻と子4人です。全員他界されていますので、6人全員の出生から死亡までの全戸籍を取り寄せます。そして、6人全員の「子」の確認をします。
認知された婚外子がいれば、その人も「子」であり相続人になります。(法改正があった為、認知された子の相続分は認知した方の死亡日により、変わります)
従弟は6人、Aを合わせて7人が戸籍収集前に分かっている相続人です。認知した子が出てきた場合、その子も相続人です。また、従弟が今は6人ですが亡くなった方が居て本当は7人だった場合、その亡くなった方の出生から死亡までの全戸籍が必要なり、その人の子が相続人となります。
相続は、直系(親、子、孫、曾孫といった関係)の場合、どこまでも代襲相続していきます。終わりはありません。直系はどこまでも相続権がありますので、相続を放置していると相続人はどんどん増えて行く可能性があります。相続人だった人が亡くなっていたら、「相続人が減る」のではなくその人に子供が複数いる場合「相続人が増える」という事を覚えておいてください。

それから、昨今相続人が海外にいらっしゃるケースも増えています。海外在住の相続人がいる場合でも、当然遺産分割協議は全員で行わなければなりません。その場合、当然の事ながら相続手続のハードルは上がっていきます。(詳細はこちら
海外に相続権のある方がいらっしゃる事が分かった段階で、ご実家の持ち主が生前に遺言書を作成しておけば、将来的に手続きが大変になる事は無いのですが、遺言書を書く人がまだまだ少ない日本では期待できない状況です。

ところで、当然の事ながら、もし家の権利者が亡くなられた方ではなく別の方で、その方がご存命である場合、相続は発生していない事になります。家は当然その方のものです。

<相続人全員で話し合う(遺産分割協議)>

遺産分割協議は、相続人全員で行わなければ無効です。一人でも欠けたら無効ですし、認知症等を発症されている方がいらっしゃる場合、その方は話し合いが出来ませんので法定相続分通りの分配か、成年後見制度を利用するしかありません。
相続人の話し合いがつかない、争いになってしまったような場合には、弁護士に相談する事になり、家族間の話し合いがつかない場合は家庭裁判所で調停、それでも折り合いがつかない場合は裁判になります。
相続の分配で揉めるのは資産家だけだと思われる方が多いのですが、遺産分割調停の1/3は1000万円以下、75%が5000万円以下の相続という事ですので、誰の身にも起こりえます
相続人の間で協議がまとまらない場合、行政書士も司法書士も代理人にはなれませんので、弁護士案件となります。当然、弁護士費用がかかってきます。

繰り返しになりますが、遺産分割協議は、「相続人全員で行わなければ無効」ですので、法定相続人が一人でも欠けたら無効ですので、相続人を正しく特定し、全員が納得できるように情報を共有して行ってください。

【③相続登記】

遺産分割協議がまとまり、遺産分割協議書を作成して漸く相続登記手続きに入れます。
必要書類を揃えて、法務局に申請します。登記は司法書士が行います。
登記が完了し、権利者として登録されると売却が可能になります。

それでは、次回「売却の準備(後編)」では遺品整理と必要書類、そして税金のお話しをしたいと思います。

※当事務所では、不動産登記簿謄本の取得、相続人の特定とそれに付随する戸籍の取寄せ、
 遺産分割協議書の作成等を行い、司法書士に相続登記の依頼をしています。
 オンラインを使い、地域に関係なく受任しています。いつでもご相談ください。

このサイトをフォローする!