あなたに適した遺言書の形式とは

「遺言書」と言われてあなたが思い浮かべる「遺言書」はどんなものでしょうか。
遺言の形式は色々ありますが、一般的なのは自分で書く「自筆証書遺言」と公証役場で公証人に書いてもらう「公正証書遺言」の二つです。どちらが自分に適しているのか分からない、その違いが分からない、という方は多いと思います。という訳で、今日はそのお話しを。

端的に言うと、相続人間のもめごとを引き起こしがちなのは「自筆証書遺言」です。何故かというと「本当に本人が書いたの?」と言い出す相続人がいるからです。
有名なところでは、老舗かばん店「一澤帆布」のお家騒動でしょうか。遺言書の筆跡鑑定となり、裁判で争われました。最近では「紀州のドン・ファン」の遺族が「全財産を市に寄付する」と書かれた自筆証書遺言は本人の筆跡ではなく無効だとして裁判で争っています。

また、遺言者が遺言を書いた時に「遺言能力があったかどうか疑わしい」と言う事になると、遺言書が有効か無効かで争われる可能性が出てきます。因みに遺言能力とは、遺言の内容を理解し、財産が相続人にどのように相続されるかを弁識するに足る意思能力の事です。遺言書が書かれた当時、認知症の疑いがあれば、遺言能力を疑われる事になります。

この2点を回避できる可能性があるのが「公正証書遺言」です。
この遺言書は公証役場に遺言者が出向き(行くことが出来なければ、費用はかかりますが公証人が病院等に出張してくれます)公証人が作成する遺言書です。
ただ、自筆証書遺言と違って、費用と時間がかかります。公証人が作成すると言っても入念な事前準備が必要で、何度か打ち合わせを重ねた上で作成に入ります。遺言者と公証人の間に法律の専門家が入るのが一般的です。また、作成には証人2人が必要です。

一方の自筆証書遺言はどうでしょうか。自分で書くのだから、紙と筆記用具があれば簡単に作成できる、と思われる方も多いと思いますが、民法が定める形式を守っていなければ「無効」となります。無効となってしまっては、せっかく書いた意味がありません。
問題のない、「有効」な遺言書を作成するには、法定相続人を特定し、財産目録を作り、自分の意思通りに相続人が相続出来るよう表記する文言を正しく選び、民法の定める形式による遺言書である必要があります。こちらも法律の専門家に相談しながら作成するのがおすすめです。
自筆証書遺言も、公正証書遺言も、有効な遺言書がスムーズに完成するように行政書士は作成サポートをしています。

それでは「自分はいったいどちらの形式を選ぶべきなのか」というお話しに移りましょう。

自筆証書遺言をお薦めするのは次のケースです。

・相続人が一人で争いになる要素がない(配偶者が既に亡くなっており子供が一人しか居ない等)
・死亡時にあらかじめ遺言者が指名しておいた人に通知が行く法務局の自筆証書遺言管理制度を利用したい(公正証書遺言では今のところ法務局からの自動通知はありません)

念のため付け加えておくと、子供が居ない夫婦の場合「相続人が一人」ではない場合が多いです。遺言者に親がいる、もしくは親は亡くなっているが兄弟姉妹がいるという場合はその人たちも法定相続人です。遺言者が一人っ子で、親が亡くなっていない限り配偶者のみの相続とはなりません。(遺言書があれば兄弟姉妹への相続はしない事が出来ます)

公正証書遺言をお薦めするのは次のケースです。

・不動産を含む資産を多数持っている
・相続人が多い
・相続人同士の仲が良くない
・子供が居ない夫婦で、遺言者に兄弟姉妹(亡くなっていれば甥姪)がいる
・法定相続人以外への遺贈を考えている
(法的な婚姻関係にないパートナーや、法定相続人である子の子(孫)を含む)
・ボランティア団体等に寄付を考えている
・遺産の分配額に偏りがある
・離婚歴があり、前婚の子供がいる
・婚外子がいる
・事業承継を伴う相続である
・手が震える等により筆跡が以前とは違って見える
・自分で文字を書く事は困難だが口頭で意思を伝える事は出来る など

余談ですが、相続人の争いの発生原因として、法定相続人の「配偶者の意見」というのがあります。兄弟姉妹の間では納得した内容に、その配偶者が待ったをかけるケースです。案外このトラブルは多いようです。
また、「相続人同士の仲」は一見仲良く見えていても、兄弟姉妹間で親からの愛情やかけてもらったお金に差があるというわだかまりが、親の死後一気に噴出する事も珍しくありません。遺言者が思う子供の関係性と当事者たちの関係に違いがあるという事は良くあることです。

自分が残す遺産は大した額でないから、相続人がもめる事はない、と考える人も多いかもしれませんが、2020年度、相続でもめて家庭裁判所での調停に至った件数は11,303件で、その77%が5,000万円以下の遺産です。また、5,000万円以下の内、半数弱が1,000万円以下となっています。もめるのに額は関係ないと思っておいてください。

自分の死後も家族が円満に過ごせるように、手続きの負担を減らせるようにと思って残すのが「遺言書」です。そして、もめごとを出来る限り回避できる遺言書を残すなら「公正証書遺言書」です。
とはいえ、もともと相続人が一人というような争いようがない方の場合は遺言書の検認の必要がなく、死後指定した人に遺言書の存在を通知してくれる法務局の預かり制度を利用した「自筆証書遺言」を選択するのも良いでしょう。

どちらの遺言書の形式を選ぶのかを考える時には、

①法定相続人を特定
➁財産目録を作成
③自分が誰に何を相続させたいかその内容を考える
④相続人とその関係者の人間関係を考える

というところから始めてみてはいかがでしょうか。

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