相続税の基礎控除額とは

以前「相続税は他人事ではない」というブログを書きました。

その中でも書きましたが、残された遺産総額が「相続税の基礎控除額以下」の場合には、相続税の申告も納付も不要です。という訳で、相続税の基礎控除額を正しく算出する事が相続税を考える上でのスタートラインとなります。という訳で、今回は基礎控除額のお話しです。

相続税の基礎控除額の計算式は次の通りです。

相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数

ここでポイントとなるのは「法定相続人の数」です。法定相続人を確認する為には故人の出生から死亡までの全ての戸籍を確認する必要があります。
一番の理由は故人の子の確認、認知した子等の確認が必要だからです。

人が一生を終えるまでには複数回戸籍が作られます。例えば本籍を移したり、婚姻する事によって戸籍は新たに作られます。また、戸籍の電子化など行政側の理由で戸籍が改正される事もあります。(直近では平成6年に行われています)
例えば、再婚した場合は再婚時に新しい戸籍が作成されます。「前妻との子」がいる場合、親権を持っていなければ前婚の子の記載は新たに作成される戸籍にはありません。また、再婚する前に「認知した子」がいる場合、認知した時の戸籍には記載されていますが、再婚により作成された新たな戸籍には記載されません。つまり、再婚後の現在の戸籍では前婚の子や認知した子の有無は分からないのです。因みに、前婚の子の相続分は現在の婚姻の子と同じです。また、認知された子の法定相続分も民法改正により他の子と同じです。

次に、「相続放棄」をした人について考えてみましょう。亡くなられた方に複数のお子さんがいらっしゃって、一人が相続放棄をしたとします。相続放棄は相続が最初から無かったことになるのですが、相続税の基礎控除においては、相続放棄をしてもその人は法定相続人としてカウントされます。覚えておいてください。

そして次は「養子」についてです。例えば、家の名前の存続の為にお孫さんを養子にするという事があります。兄弟の中の一人が祖父母の養子になるというような場合です。この場合、養子も実子と同じ相続税上の法定相続人となります。しかし、このような「普通養子」の場合、養親(この場合は祖父母)に実子がいる場合は1人までしか相続税の法定相続人の数に入れる事が出来ません。養子が2人いても、相続税の控除額については1人のカウントとなります。一方、養親に実子が居ない場合は養子2人までは相続税の法定相続人の数に入ります。

なお、特別養子縁組や配偶者の実子や代襲相続人で被相続人の養子となった人は実子とみなされますので常に法定相続人の数に含まれます。

それでは、次のケースで相続税の基礎控除額がいくらになるのか考えてみてください。

令和6年、Aさんが亡くなりました。Aさんには妻Bと子3人(CDE)が居ました。更にAさんは離婚して実家に戻って来たDの子である孫2人(FG)を養子にしていました。
Aさんの死後、遺族がAさんの全ての戸籍を取り寄せたところ、Aさんは前妻との間に子供が2人(HI)おり、現在の妻Bと婚姻する前に認知した子が1人(J)いる事が分かりました。
Aさんは遺言書を残していなかった為、相続人全員での遺産分割協議が必要になりました。この時点で、Aさんの子Eが相続放棄をし、相続協議から離脱しました。

さて、「相続税の基礎控除額」はいくらになるでしょうか?

相続税の基礎控除額における法定相続人は次の方々です。

  • 妻B
  • 子CDE(Eは相続放棄しましたが基礎控除額の計算上は法定相続人です)
  • 養子F(実子がおり普通養子の為、相続税上養子は1人のみ法定相続人
  • 前妻の子HI
  • 認知した子J

つまり、法定相続人は合計8名となります。

相続税の基礎控除額=3000万+(600万×8名)=7800万円

という訳で、Aさんの遺産が7800万円以下であれば相続税の課税はありません。

ところで、相続分については相続放棄したEの相続は当然ながらありません。最初からEは居なかったものとして扱います。
それでは、法定相続分も整理しておきましょう。

相続の分配における法定相続人は次の方々です。

  • 妻B
  • 子CD(Eは相続放棄)
  • 養子FG
  • 前妻の子HI
  • 認知した子J

という訳で、合計8名となります。この8名の法定相続分を整理しましょう。

まずであるBが1/2の権利を持ちます。残りの1/2を子が分ける事になります。
2人の養子、前妻の2人の子そして認知した子はAさんの子CDと同じ相続権を持ちます。
つまり、7人全員が平等の権利を持つわけですので、1人当たりの法定相続分は1/14となります。

この相続分に納得が出来ない、となった場合は相続人全員で「遺産分割協議」を行い「遺産分割協議書」を作成するしかありません。話し合いは全員で行われなければ法的に無効です。話し合いがつかない場合は、弁護士案件となり家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てる事になります。調停が不成立の場合は自動的に遺産分割審判へと移行します。

相続人が増えれば増えるほど遺産分割協議のハードルは上がっていきます。
相続税の上では相続人が多ほど基礎控除額は増えるのでメリットがあると言えますが、遺産分割においては大変な事になってきます。

という事で、今回は相続税の基礎控除額における法定相続人と相続財産の分配における法定相続人の考え方は少し違うというお話しでした。

とにもかくにも、相続人が多い、相続人間の話し合いが困難と予想される場合には遺言書を残す事が遺族への最後の贈り物になると思います。また、法定相続人の確定は相続においては大変重要です。いつでもご相談ください。

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