他人事ではない相続税の話し
「相続税」という言葉を聞いて思い浮かべるのは「お金持ちが払うもの」と思う人は多いと思います。そして、「自分には関係ない」と思う人がほとんどではないでしょうか。
確かに、今から10年前ぐらいまではその通りでした。しかし、増税に次ぐ増税の昨今の日本においては、「相続税」も課税対象者を増やす方向で改正が行われ、他人事ではなくなってきています。現在、相続税の課税対象者は約10人に1人となっています。
行政書士兼ファイナンシャルプランナーで、相続手続きのご依頼を受けている私からすると、相続税は今や誰でもある程度は知っておくべきものであると思います。特に相続財産に不動産がある場合は要注意です。その理由は次の通りです。
①相続税控除額の改正
平成26年12月31日まで 5000万円+(1000万円×法定相続人の数)
平成27年1月1日以降 3000万円+(600万円×法定相続人の数)
➁ 親の世代と違い兄弟姉妹が少なく、法定相続人が少ない場合が多い
注目すべきは、基礎控除額の額です。相続税は残された資産が控除額を超えなければ、税務署への申告は一切不要です。超えた時から申請が必要になります。控除内なら何もせずに終わっていきます。
かつては相続人が1人でも6000万円を超えなければ相続税は課税なしでしたので、課税対象者は少なかったと言えます。ですが、今は3600万円です。2400万円も控除額が減額された訳です。それに伴い控除額を超えてしまう人がぐんと増えました。
そして、相続税で気を付けなければならないのは、「二次相続」です。「二次相続」とは何でしょうか。具体例をあげて説明しましょう。
【夫婦と子1人の3人家族の相続】
●夫の遺産●
持ち家 2500万円 / 預貯金 1500万円 / 夫の生命保険金 500万円
<夫が他界=一次相続>
・相続人 : 妻と子の2名(子は持ち家あり)
・控除額 : 3000万+(600万×2人)=4200万円
・遺産総額 : 家2500万円+預貯金1500万円=4000万円
・課税対象額: 遺産4000万円-控除額4200万円=-200万円
※生命保険は妻が受取人。保険金は相続財産ではない。受取人(妻)の資産となる。
遺産総額が相続税控除額内の為、相続税の課税はない。
子は既に持ち家がある為、家を相続せず。母親の生活費確保の為、他の資産も全て母親が相続した。
<妻が他界=二次相続>
●夫から全財産を相続した妻が残した遺産●
持ち家 2500万円 / 預貯金 1500万円
※一次相続の時に預貯金+保険料=2000万円だった預貯金は、二次相続時に残高1500万円であった。
・相続人 : 子、1名
・控除額 : 3000万+(600万×1人)3600万円
・遺産総額 : 家2500万円+預貯金1500万円=4000万円
・課税対象額: 遺産4000万円-控除額3600万円=400万円
この、400万円に対して相続税が課税されます。
400万円に対する相続税の税率は10%ですので、相続税は40万円となります。
(額により税率が変動します)
この場合は、預貯金が残っているのでその中から相続税を支払えばよいのですが、もし不動産と少額の預金というパターンの場合、相続税を支払うとなると足りない分を相続人が自らの資産から払う事になります。
相続税の申告と納付期限は、「相続人が、被相続人(亡くなった方)が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」です。亡くなってから10か月はあっという間です。家を売却して相続税を支払うには時間が足りない場合がほとんどだと思います。この申告・納付期限に遅れると、延滞税、重加算税等のペナルティーが課せられます。
「うちは、家しか残らないから相続税は関係ない」という方がよくいらっしゃいますが、逆に家しかない場合に困る事になりがちです。
田舎の家なら地価が安いので相続税の問題は生じにくいかと思いますが、都心の場合、家が古くても土地は高額になりがちですので、相続税の課税評価額は高額となり、控除額を超えてしまう場合が多々あります。
例にあげた3人家族の場合、一次相続の時に、母と子で話し合い、母親の生活に支障が出ない範囲である程度子も相続しておけば、二次相続時に相続税はかからないで済みました。一次相続時に分配を良く考える事が、相続税対策になるのです。
夫が亡くなったら、とりあえず妻が全てを相続して、妻が亡くなった時に子供達が話し合って相続配分を決めれば良い、と考えるご夫婦は多いと思います。
昔はそれで問題がなかったのですが、今は先に述べたように相続税の控除額大幅減少により状況は変わってしまいました。
ご両親のうち、おひとりが亡くなられた時には、資産状況を把握した上で相続の割合を相続人全員で話し合う事は、将来残された親御さんが亡くなられた時(二次相続)の備えになります。
残された配偶者の生活と二次相続を考えた一次相続、遺産分割協議書の作成について、いつでもご相談ください。