「相続人いない財産」について思う事
いよいよ年の瀬ですね。
今回は、12月24日のNHKニュースで取り上げられていた「相続人いない財産」についてお話ししたいと思います。
報道によると、去年1年に日本で亡くなった方は150万人以上。そして相続人が居ないがために国庫に納められた「相続人いない財産」は過去最多の768億円になったそうです。
以前も「相続人なき遺産」については取り上げましたが、2021年度の国庫に入った遺産は647億円でしたから、121億円も増えた事になります。
増えた理由として考えられるのは、コロナも関係しているかと思いますが亡くなった方の増加、そしてお一人様の増加、少子化といったところだと思います。
死者が増えれば遺産は当然増えます。しかし、「相続人(法的に遺産を受け取る権利がある人)」が居れば国庫に入る事はありません。では、「相続人」はどのような人なのでしょうか。整理してみましょう。
【無条件で相続人になる人】
- 配偶者
- 子供
【条件によっては相続人になる人】
- 両親、祖父母
- 孫、曾孫等
- 兄弟姉妹
- 甥姪
【相続人ではない人】
- 叔父、叔母
- いとこ
どうでしょうか。ご自身の家族構成に当てはめてみてください。もし、あなたが一人っ子で、配偶者も子もご両親もいなければ相続人は居ません。
兄弟姉妹がいても、全員に子が居ない状態であなたが祖父母、両親、兄弟姉妹の中で一番長生きしたら、相続人は居ません。
兄弟姉妹は居ないけど、仲の良いいとこが居たとしても、その人は相続人ではありません。叔父叔母も同じです。
かくいう私も、一人っ子で子供が居ませんので、現在の相続人は親と夫ですが、私が夫よりも長生きした場合は、私の財産は何も手続きをしておかなければ国庫に納められる事になります。
お一人様の推移ですが、2020年時点で671万人だそうで、2030年には約800万人になると言われています。相続財産が国庫に納められる話しは、ますます珍しい話しではなくなっていくと言えるでしょう。
NHKの報道では、亡くなった方の従弟が、亡くなられた方が住まわれていた分譲マンションを案内されていました。先に述べたように、従弟は相続人にはなれません。そして、マンションは亡くなられてから数年経っているという事ですが、生前のままになっていました。
言うまでもなく亡くなった後、賃貸にしても持ち家にしても遺品の整理がつきものです。また、持ち家の場合売却も必要になってきます。賃貸でも持ち家でも、手間と費用、つまり時間とお金がかかります。
私自身、お一人様の叔父の死後事務手続きを行いましたが、時間とお金がかかりました。賃貸だったので、住居に関しては大家さんに返せば完了で随分助かりましたが、それでも遺品整理が必要でしたし、役所周りも色々と大変でした。しかも、叔父は東京在住で私は奈良在住の為、物理的な距離によるハードルは上がりました。
私の場合は「姪」でしたので、相続人に該当し葬儀費用も遺品整理も叔父の遺産から支払う事が出来ましたし、遺品を処分する権利もありましたが、これが例えば相続人ではない「従弟」となるとそうはいきません。
では、どうすれば良いのでしょうか。
【備えておくべきもの】
●遺言書
●死後事務委任契約書
とにかく、この二つは最低限必要だと思います。
民法の定める相続人が居ない人の場合、自分の遺産を渡したい人を「遺言書」に書いておけば、その人に渡す事が出来ます。例えば、NHKで報道された方が、従弟に遺産を渡すという遺言書を作成していれば、従弟が受遺者となり、遺品整理を行い、マンションを売却する事が可能でした。また、渡したい人が居ない場合は、団体でも良いです。ボランティア団体を選ぶ事も勿論可能です。遺言書があれば、遺産は国庫に入りません。
遺言書を作成する上で大切なのは、法的に有効な遺言書の作成と、遺言書の存在が、死後、関係者にきちんと伝わるようにすることです。
遺言書の内容を実行してくれる人を選ぶこと。それを「遺言執行者の選任」と言います。
遺言執行者は成人している人で破産者でなければ誰でもなれますが、遺言書作成に携わった行政書士等の専門家である士業に依頼しておくと手続きがスムーズでしょう。
とにかく、遺言書がある事を周囲の人にちゃんと伝わるようにしておくことが大切です。
次に、「死後事務委任契約」です。この契約では、亡くなった後の病院への支払い、役所の各種手続き、遺品整理、葬儀、埋葬等、亡くなった後に必要になる事務全般を頼む事が出来ます。
亡くなった後の遺品整理は大変です。業者に頼むにしても当然費用がかかります。中には、親族に自分の持ち物を見られたくないという方もいるでしょう。最近では、スマホやPCの中を見られたくないという事で、デジタル遺品の破棄を業者等に依頼する人も増えているようです。
「死後事務委任」は、遺品整理、葬儀の内容、埋葬の方法等、どのようにして欲しいのかを相手(受任者)に伝えた上で、契約書を作成します。
この契約は、医療費、葬儀費用、埋葬費用など支払いを伴うものです。その為、依頼者は預託金を受任者に預けておきます。また、受任者の報酬も預託金に含めておくのが一般的です。
死後事務を行った後、預託金が余れば相続財産に返還されます。なお、遺言書と死後事務委任、両方を作成する場合、相続財産から死後事務費用を賄う方法も可能です。そのような場合には、死後事務委任の受任者と遺言執行者を同じ人に頼むとスムーズです。
また「死後事務委任契約」は「見守り契約」「財産管理契約」「任意後見契約」と合わせて作る事が可能です。(詳しくはこちらをご覧ください)亡くなる前から必要となるサポートを受ける為には、これらの契約を締結する事が必要だと思います。
私個人としては、相続人が居ない状態で自分が亡くなった時に財産が残るのなら「相続人がいない財産」として国に納められるのではなく、自分が選んだ人たちの役に立てるよう遺産を渡したいですし、家族と一緒の場所に埋葬されたいと思っています。
相続人が居なければ、自分で準備をして、きちんと人に頼んでおかなければそれはかないません。
自分がこの世からいなくなった後の事を考える。死後も自分に関する事は、自分の思った通りにして欲しい。自分の意思を他の人に伝える為には、書類として残す事が必要です。
そしてそれを頼める人を探し、頼んでおくことが必要です。
それには遺言書と死後事務契約の作成は不可欠です。いつでもご相談ください。