相続放棄のお話し

芸能人が亡くなった後、時折ワイドショーで相続の話しが出てきます。最近では、千葉真一さんが亡くなった後、多額の借金が残された為、お子さん達が相続放棄をしたという話しがありました。ワイドショー以外でも「相続放棄」という言葉は時折皆さんも耳にされるのではないかと思います。

さて、ここで問題です。例えば、お父さんがまだお元気なのにその息子さんが「僕は相続放棄しているから。家族にはそう伝えているから」と言いました。この場合「相続放棄」は成立しているのでしょうか?

答えは×です。相続放棄は、被相続人が亡くなり、あなたが相続人になってからでないと出来ません。また、相続放棄は「相続放棄するよ」と家族に伝えるだけでは、正式な「相続放棄」ではありません。つまり本人がそう言っているだけ、という状態です。

「相続放棄」とは、文字通り亡くなった人の財産の相続を全て放棄する事です。相続放棄は本人が自由に決める事が出来ます。他人が相続放棄を強要する事は、法律上許されていません。そして、相続放棄は他の相続人の同意を得る事なく、自分一人で手続きをする事が出来ます。

相続放棄をする理由で多いのは、故人に多額の借金があった場合だと思いますが、この場合は必ず「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に「家庭裁判所相続放棄の申述書」等の必要書類を提出しなければ、相続放棄は成立しません。因みに、裁判所に支払う手数料は800円です。

さて、次は具体的な例を挙げて相続放棄を見て行きましょう。
例えば、次のようなケースの場合どうなるのでしょうか。

・父親が亡くなった
・故人には、妻、長男、次男がいる
・故人の両親は既に他界している
・故人には、妹がいる
・故人に1億円の借金があった
・故人の遺産は2000万円だった

まず、「相続財産」とは、プラスの財産だけでなく借金も該当します。では誰が相続人になるのか。
配偶者は常に相続人となりますので、まず妻は相続人です。そして配偶者以外の「相続人」には「順位」がつけられています。「第一順位」の相続人は「子(直系卑属)」になります。という訳で、このケースの法定相続人は、妻と子2人の合計3人となります。

さて、父親の遺産を調べた結果、残したプラスの財産は2000万円で、借金が1億円ある事が分かりました。差し引き8000万円の借金が3人に残された訳です。困りますよね。因みに、借金は法定相続分に基づいて支払い義務を負いますので、妻4000万円、子2人は2000万円ずつの借金を抱える事になります。という訳で、3人は借金を返済するのではなく相続放棄をしようという事になり、全員が家庭裁判所に書類を提出して晴れて借金から解放されました。

するとどうなるのか。今度は「第二順位」に相続が移ります。「第二順位」は「親または祖父母(直系尊属)」ですが、既にこの方たちはお亡くなりになっています。すると更に順位は下がって「第三順位」である父親の「兄弟姉妹」に相続が移るのです。これって、爆弾を親族内で移動させているようなものですよね。

ところで、相続には「代襲相続」というものがあります。例えば、母方の祖父が亡くなった時、本来なら子である母が相続人となるところ、母親が既に他界している場合、その直系卑属である子が祖父の遺産を相続する、というケースです。祖父の遺産を孫が母に代わって(代襲)相続したという事になります。この「代襲相続」は「相続放棄」ではどうなるのでしょうか。

まず、今回相続放棄した兄弟の兄の方に、子供が居たとします。兄の名を太郎、その兄の娘を華としましょう。

太郎が放棄した相続財産はその子である華に行くのでしょうか?答えは×です。「相続放棄」をした場合、太郎は「最初から相続人ではなかった」という扱いになるので、代襲相続は発生しません。一方、太郎が既に他界していれば華は代襲相続する事になります。

では、妻と子が相続放棄をしたばっかりに、回りまわって妹に来てしまった負の相続についてみてみましょう。

まず、相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」なので、妻と子が相続放棄をしたことによって相続人となってしまった妹は、早々に行動を起こさねばなりません。
そして、ここでも代襲相続が発生します。例を挙げてみましょう。

妹には大和という男の子が居ました。妹が相続放棄をしてしまえば、大和に相続が行くことはありませんが、妹が既に他界していた場合、大和は代襲相続して相続人となってしまうのです。
叔父の残した借金が、回りまわって甥っ子、姪っ子に来る事がある、という事です。怖いですよね?ちょっとびっくりしませんか?この場合、大和も相続放棄をしなければ、借金を抱える事になってしまいます。

という事で、故人が残した借金を相続放棄する時には、相続人に該当する人全員(第三順位までです)が次々に相続放棄をしなければ誰かが抱える事になるのです。
司法統計年報によると、2020年の「相続放棄の申述」の受理件数は23万3732件だそうです。そして、その数は年々増加傾向あるそうです。

家庭裁判所は相続放棄の申述を受理した後、後順位の相続人に相続人となった事を通知してはくれません。という訳で、知らないうちに借金を抱える事になっていた、なんていう事にならないように相続放棄をする時には親族間で良く話し合ってみてください。そして、そもそもの話になりますが、法定相続人を正しく特定する事もお忘れなく。まずは、故人の出生から死亡までの戸籍謄本を読み解く事から始めましょう。いつでも行政書士にご相談ください。

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