配偶者が亡くなった時の相続

ご夫婦のお一人が亡くなった時、相続が発生します。この相続を一次相続と呼びます。その後、もうお一人が亡くなった時に発生する相続を二次相続と呼びます。
ご夫婦のお一人が亡くなられて、お子さんと同居される事なく、残された方がお一人で暮らされているというのは皆さんの周りでもよくある事だと思います。配偶者が亡くなられた後、特にその家が持ち家だった場合は残された方が継続して住まわれるのが一般的だと思います。

遺言書に、「配偶者に全て相続させる」と書かれる方はいらっしゃいますし、遺言書がない場合でも、相続人が話し合った結果、残された親御さんが全てを相続し、その方が亡くなられた後の二次相続でお子さん達が相続すれば良いと決められるケースも多いと思います。

●残された配偶者の今後の生活を考える

一次相続で一番大切な事は、残された配偶者が生活に困らないようにする事だと思います。残された方が長年扶養家族だった場合、年金受給額は減りますし、高齢になるほど医療費や介護費が必要になります。自営業をされていた場合は、国民年金ですので収入はより少なくなります。生活費の確保が大事な問題となってきます。

因みに、単身高齢者の生活費の平均は令和元年の総務省家計調査報告によると、月額約15万5千円年間では約187万円です。そして、生命保険文化センターの調査によると介護期間の平均は61.1カ月。初期費用と月額介護費を合わせて介護費用は約581万円となっています。年金では足りない分は預貯金等から支払う事になります。

最初にすべき事は、ご夫婦の資産の棚卸です。そして、月々の生活費等の支出を書き出してみます。
年金等の収入と、支出予定額をもとに、今後のキャッシュフローを考えます。
お持ちの資産と年金で一生賄えるようであれば、持ち家の売却を考える必要はない、となります。
持ち家がなく資金不足に陥る心配がある場合は、一人暮らしになる訳ですので賃貸物件を含む支出の見直しが必要になります。早い段階でのご家族への相談も大切だと思います。
いずれにしても、支出の見直しで経済的な問題が回避できるのであれば、これを機会に見直します。

家の売却が必要になるのであれば、いつどのタイミングで売却するのか、話し合う必要がある事をご家族で共有してください。因みに、家の売却は契約能力が必要ですので、所有者全員がお元気なうちにしかできません。認知症等を発症された方が所有者に含まれる場合、簡単には売却出来なくなります。
親御さんが認知症を発症され施設に入居する必要があり、家を売却しようとされた時、当然の事ながら持ち主でないお子さんは家を売る事が出来ないのですが、その事に驚かれる方がいらっしゃいます。「子供なのに親の家を売れないんですか?」と何度か質問された事がありますが、持ち主でない以上親子でもお子さんご本人が親御さんの持ち家を売る事は出来ません。(介護費用と不動産売却についてはこちら

ところで、配偶者が亡くなった時、死亡保険金を受領される方は多いと思います。そのお金は生活費として必要になる可能性が高いですので、相続税対策の保険に入るとか、定期預金にするとか、投資信託等の運用を考えるのではなく、適切な使い道が決まるまで、いつでも引き出せる普通預金においておきましょう。(高齢者の資産についてはこちら)なお、死亡保険金は相続財産ではなく、受取人の財産ですので、基本的には相続人で分けるものではありません。(保険金と贈与税についてはこちら)

次に持ち家にお住まいの方に大事な事をお伝えしておきます。不動産の名義はとても大切なものです。ご主人が亡くなられて、ご主人の家が相続対象となった時、遺言書が無ければ民法上その家の所有権は妻1/2、子全員で1/2です。亡くなられた時点で自動的に相続分はそう決まっています。それを話し合いで変更していくのが「遺産分割協議」です。生きていくには生活費が必要なので、預貯金等は妻が全て相続し、「この家はそのまま住んでくれればいいよ」と言われて、家の名義だけは子供たちにしておこうかと考える方はいらっしゃると思います。しかし、これは要注意です。あなたがその家に継続して住む場合は、全ての名義を子供達にしてしまう事はお薦めできません

こんな話があります。

ご主人が亡くなられた後、一人息子が家を、他の全ての財産を妻が相続しました。一人息子は結婚しており、妻子と離れた場所に住んでいました。
その後、一人息子が亡くなり、母親と息子の妻子が残されました。息子は遺言書を残していませんでしたので、相続は民法が定める通りとなりました。
息子には子供がいますので、母親は相続人ではありません。子供がいる場合、相続人は妻と子のみです。家は息子の持ち物になっていましたので、住んでいる母親には家の所有権がありません。息子の財産は息子の妻が1/2、その子が1/2の割合で相続する事になります。
ほどなくして息子の妻が「この家を売却する事にしました」と連絡してきました。母親は非常に困りましたがなすすべはありません。そして、母親は家を出て行かざるをえなくなりました。

酷い話しだと思われるでしょうが、息子の妻の行動に法律上何の問題もありません。民法上、家の売却は所有者全員の同意が必要ですので、母親が少しでも家の権利を持っていれば、売却は阻止できたでしょうが、残念ながら全てを手放してしまっていたので何も出来ないのです。

そんなひどい事をする人がいるのか、と思われるかもしれませんが、実際にこういった事は起きています。例としてあげた件では、息子の妻が一方的に悪く見えるかと思いますが、実は亡くなった息子に借金があって、息子の妻は売りたくなくてもその家を売らざるを得なかったという事も考えられます。
家の名義人が借金を抱えており、返済が出来くなった場合は、当然の事ながら家は債権者に取られる可能性があります。家の所有権を手放す事はそれなりのリスクが伴います。
という訳で、家の相続、相続登記は要注意です。覚えておいてください。

●相続税を考える

相続税というと、資産家にしか関係ないと思われる方は多いと思います。でもそれは過去の話しと言えます。
相続税は2015年に改正され、課税対象者はそれ以前は4%でしたが、現在では約10人に1人となっています。2015年以前は相続人が2人居れば控除額は7000万円でしたが現在の控除額は4200万円です。4200万円を超えた段階で超過分が相続税の課税対象となります。

 相続税基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

最近、都市部の地価は値上がりしていますので、都市にお住まいの方で不動産を持たれている場合は対象になる可能性が高いと言えます。家の評価は、建物ではなく土地です。建物の古さは関係ありません。
持ち家の相続税における評価額は、毎年地方自治体から送られてくる固定資産税納税通知書に記載されている「当該年度価格」から概算を算出する事が出来ます。

 土地:「固定資産納税通知書の当該年度価格」÷0.7×0.8
 建物:「固定資産納税通知書の当該年度価格」×1

この土地と建物の合計が不動産の相続税上の評価額の概算となります。

一次相続において、不動産評価額と故人の預貯金等の資産、保険金の非課税枠超過額(後述)の合計が、相続税の基礎控除額を超える場合、一次相続の段階で相続税の納税が必要になります。期限は相続の開始から10か月以内で、それを超えるとペナルティーがあります。相続税基礎控除額内であれば、申告する必要はありませんので、何もしなくて終わります。

因みに、一次相続の時点では配偶者が相続人に該当しますので、相続税の配偶者特別控除(1億6000万円)の制度を利用(要申告)して相続税を回避するというのは一つの方法ですが、二次相続時の相続税を考えると良い方法とは言い切れません。

一次相続において、不動産は高額だったがどうにか控除内に収まったという場合、注意すべきは二次相続です。二次相続時には相続人が一人減る訳ですので、基礎控除額が600万円減額されます。
一次相続時に不動産を配偶者が全て相続するのではなく、相続税を考えて適切な割合で他の相続人も部分的に相続しておくというのは相続税対策の一つです。とはいえ、先に述べたように不動産の分配は良く考えて行ってください。(持ち家をお持ちでないお子さんがいらっしゃる場合は、2024年時点では「小規模宅地の特例」がありますので、そちらを利用できるのであれば相続税対策としてその特例の利用も考えられます)

また、保険金も要注意です。保険金の非課税額は次のように定められています。

 保険金の非課税額=500万円×法定相続人の数

この非課税額を上回った場合は、その上回った額が相続税課税評価額に加算されます。相続人が子一人で、死亡保険金が1000万なら500万円が加算されます。
不動産と預貯金等の遺産の合計が相続税基礎控除額内であったとしても、保険金を加算すると相続税基礎控除額を超えてしまうという事は起こりえます。(保険金と相続税についてはこちら
相続は、一次相続において配偶者が全てを相続した場合、一次相続では相続税を免れても、二次相続においてご夫婦二人分の遺産が一気に相続財産となり、相続人も減るので課税対象となる可能性が高くなると覚えておいてください。

というように、相続は手続きだけでも大変なのですが、考えておいた方が良い事が色々出て来ます。
配偶者が亡くなった後、安心して楽しく暮らしていきたい。子供たちが困らないように、相続税の事や手続きの軽減を考えておきたいという方は多いと思います。闇雲に生活に不安を抱えて節約生活に入るのは避けるべきですし、浪費し過ぎるのも良くありません。資産状況をきちんと把握し、安心して楽しく過ごされるのが一番と考えます。

当事務所では、ファイナンシャル・プランナーとして残された配偶者のお金の事や相続全般のご提案書の作成、行政書士として相続手続についてのご相談をお受けしています。将来的に困らないように準備をする「予防法務」は行政書士の仕事です。いつでもご相談ください。

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