同性カップルの法的な備えとは
2023年9月の時点で、パートナーシップ証明書や宣誓書を発行している地方自治体は343自治体となりました。当事務所のある生駒市、近隣の奈良市もその中に含まれています。
しかし、「婚姻」と「パートナーシップ」の間には大きな違いがあります。
パートナーシップ証明書があれば、公営住宅への申し込みが出来る、携帯電話の家族割の適用があるなどのメリットがありますが、それでは対応できないものがあります。
代表的なものをあげると、筆頭は相続です。そして緊急連絡先、ICU(集中治療室)への入室等の問題があげられるでしょう。
婚姻により配偶者となった場合、配偶者には相続権がありますが、パートナーシップ制度では相続権は認められていません。また、パートナーが不慮の事故にあった場合、連絡先は基本的に親族です。そして、ICUには患者の親族しか入れないという病院の規定がある事も多いようです。私自身、ICU入室時には患者との「続柄」を書類に記入させられた記憶があります。
婚姻関係にあれば、緊急連絡先は当然配偶者ですし、病状や治療について医師から説明を受けるのも、配偶者でしょう。
同性パートナーの場合、配偶者でも親族でもないという理由で、病院の規則に阻まれてしまうケースが実際に起こっています。
では、どうすれば良いのでしょうか。
相続については「遺言書」の作成、そして、医療機関等に対しては「任意後見契約書」の作成が有効です。
「パートナーシップ合意契約やパートナーシップ宣誓書ではだめなのですか?」と思われる方がいらっしゃると思いますが、現在の日本でお二人の関係を示す事が出来、第三者に主張出来る「公的書類」は「任意後見契約」しかありません。また、養子縁組という方法をとられる方もいらっしゃいますが、現行法では一度養子縁組をした人達は解消しても婚姻できませんので、将来的に同性婚が認められても婚姻する事が出来なくなります。(2023年現在)
公証役場で作成する「パートナーシップ合意契約書」であっても、これはあくまでもお二人の間での契約です。お二人以外の人(第三者)への効力はありません。
一方「任意後見契約」は法務局に「登記」される公的な書類です。つまり「お二人以外の第三者に対して主張するための法律要件」(第三者対抗要件)があるのです。
この契約書に、医療機関でのICUへの入室や、病状の説明等を受けられるように具体的な内容を記載して、委任しておくのです。
そうしておけば、医療機関(第三者)に対してICUへの入室や病状説明を求める場合の根拠となります。本人の意思が登記されている訳ですから、第三者がそれを否定する事は出来ないと言えます。
二人の間の取り決めを文書化するのが「パートナーシップ合意契約書」、第三者に対して二人の間柄を示す事が出来る公的書類が「任意後見契約書」とお考えください。
相続については、ご存知の方も多いと思いますが、ご本人の意思表示の方法は「遺言書」しかありません。遺言書以外は法的に認められていません。(動画も音声も不可です)
そして法律上の婚姻関係にない場合、遺言書を書かない限りパートナーに資産を渡す事は出来ません。(これは男女の事実婚でも同じです)また、パートナーは相続人ではなく、受遺者(遺贈を受ける人)となります。
パートナーに全財産を遺贈するとしても、ご両親がご存命であれば民法で定められた「遺留分」がありますので全てを渡す事は出来ませんが、ご両親が主張されない限り「遺留分」は問題になりません。因みに、兄弟姉妹には遺留分がありません。
お子さんがいらっしゃる場合には、親権の問題も出て来ます。実母には親権がありますが、実母にもしもの事があった場合、残されたパートナーがお子さんを育てるためには遺言書において、親権者(実母)が「未成年後見人の指定」をしておく事が必須と言えるでしょう。因みに、未成年後見人になるには、親権者から遺言書において指定されるか、家庭裁判所に選任されるかの2つの方法しかありません。確実に「未成年後見人」になるには、遺言書において指定されておく必要があります。
同性婚を認めないのは憲法違反であるという判決が、札幌と名古屋の地方裁判所で言い渡されました。また、東京地裁は違憲ではないが「違憲状態」という判断をしています。少しずつ前進はしていますが、2023年現在、未だ同性婚は認められていません。
お互いがお互いをまもるためには、法的な備えが必要です。
お二人が安心して暮らしていくために法的な備えが必要だと思われる方は、オンラインでのご相談も可能ですので、お住まいのエリアに関わらずぜひお問い合わせください。
※後見登記とは
登記とは、重要な権利や義務等を社会に向けて公示し、保護する為の法制度です。
パートナー間で任意後見契約等を締結、登記すれば、財産管理や身の回りの代理行為を行う任意後見人である事を、法務局発行の登記事項証明書により正式に証明する事が出来るようになります。