不動産所有権付きリゾート会員権のお話し(後編)
前回に引き続き、「不動産所有権付きリゾート会員権」のお話しです。今回は少し長くなります。(前編はこちらです)
実際に相続された方はどうされているのかとネット検索してみると、「固定資産税は安いのでとりあえず持ち続ける」という結論になる方が一定数いらっしゃるようです。
確かに売却も放棄も出来ないとなると、持ち続けるかという事になる人は多いのだと思います。でも本当に固定資産税と会費を払っているだけで済むのでしょうか?
相続した会員権には不動産の「所有権」がついています。「所有権」というのは、実はなかなか厄介で、義務(責任)が付きまといます。「工作物責任」民法717条1項の条文を見てみましょう。
『土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない』
リゾート会員権の場合、工作物はホテルなどの施設、占有者はリゾート運営会社等で、所有者は会員を含むすべての所有権者が該当します。
そして、所有者の責任は、無過失責任です。運営会社に瑕疵が無いとされた場合、所有者(あなた)に過失が無くても責任を取らなければならないと法律で定められています。また、運営会社が何らかの事情で対応できない場合には、所有者に損害賠償請求が来るでしょう。この条文がそのまま適応される状況に陥るかどうかは分かりませんし、所有者は複数で持分に応じた責任になりますが、あなたにリスクがある事は確かです。
私がもし相続の当事者だったとしたら。一日も早く「不動産所有権付きリゾート会員権」を処分しようと考えます。まだ相続が発生していなかったとしたら、実際に相続が発生する前に(相続登記の義務が発生する前に)手を打ちたいと考えます。
運営会社によっては、会員に会社への「贈与」を持ち掛けてくる場合があります。高い代金を支払って購入したリゾート会員権を、運営会社に「タダで権利を渡す」というのは購入した人にとっては腹立たしく、受け入れられない事かと思います。ですがこれ以上被害を増大させない為に、客観的になって一度考えてみてください。
あなたはその施設を今も利用していますか?使わない施設に固定資産税と会費を払い続けていませんか?その会員権を売却出来る可能性はありますか? 負動産になっていませんか?そして、一番考えないといけないのは、その「所有権」を相続する家族の事だと思います。
考えた結果、リゾート会社に贈与する事に決めたとします。ここで注意しなければならない事が2点あります。
①所有権の移転登記を確実に行うこと
➁今後運営会社とは一切の債権債務が無い事を記した「贈与契約書」を交わすこと
この2点は必須です。
まず①について。ネットの書き込みを見ると、運営会社に贈与して登記変更費用を支払ったのに、未だに「固定資産税納税通知書」が届くという人が居らっしゃいます。この場合、運営会社が実際にはまだ登記の変更手続きをしていない可能性が高いです。贈与から2年続けて固定資産の納税通知書が来るようなら、登記が変更されていないと考えてください。
登記に名前があるという事は、未だ第三者にとってあなたは所有者という事です。つまり贈与により所有権を渡したのに、責任はあなたに残ったまま、という許しがたい状況です。業者はお金だけとって何も手続きをしていないという事になります。絶対に登記簿の所有者の欄から名前を消さなければなりません。
必ず登記変更後に登記簿を確認するようにしてください。
➁については、贈与し所有権を失ったのにも関わらず、運営会社から「会費の未払い金があった」「取り壊し費用の一部を負担して欲しい」というような要求を後々されないようにする為の防止策です。リゾート会社によっては悪質と言える会社が存在しているので要注意です。という訳で、「今後、何があっても一切私には関係ない」という事を文書にしてお互い署名押印しておく事は非常に大切な事です。
運営会社が信用できない場合は、運営会社に話しを通した上で、自分で選んだ司法書士に登記変更と贈与契約書の作成を依頼するも一つの方法です。それなら確実にリゾート会員権の所有権を運営会社に贈与し、登記簿の所有者欄からあなたの名前を消せますし、契約書により今後一切あなたとリゾート会社との関係は無くなります。
運営会社とのやりとりは、民法上の知識がないと難しい事が多いと思います。運営会社から来た贈与依頼なのに、同時に高額の支払いも要求される、というケースもあります。場合によっては老朽化する建物についてのリスクをあれこれ並べて不安を煽るような文書が届く事もあります。
「タダで所有権を渡すだけでなく、お金も払え」と言われれば更に怒りを覚えますよね。
でもそんな時は焦らず、怒らず、冷静に考えて弁護士や司法書士など法律の専門家に相談してみてください。(行政書士は代理人にはなれませんのでご依頼を受けられません)
また、そのような「会員権の処分を引き受けます!」と持ち掛けてくる業者も存在していますが、処分費用として数十万の手数料を請求されるケースがあります。どのような会社なのかをまず調査してみる事をお薦めします。
とにかく、毎年その建物は老朽化していきますし、所有権者も毎年歳を重ねていきます。
そして契約には契約能力が必要です。認知症等を発症すると贈与契約も出来なくなります。
不動産所有権付きリゾート会員権をお持ちの方は、問題は先送りせず何かしらかの行動を起こされる事をお薦めします。
※行政書士は代理人になれません。お住まいの地域の市役所の法律相談会や弁護士会、法テラス、弁護士等にご相談ください