高齢者の資産について思う事

行政書士でファイナンシャルプランナーの私は、度々ご年配の方から貯金や資産運用についてのお話しをお聞きします。
皆さんが良くおっしゃるのが「普通預金に預けていても利息が低くて増えない」「窓口で利息が良い商品を勧められたけどどう思います?」というものです。

一時払い終身保険、外貨預金、外貨保険、定期預金、投資信託、NISAなど皆さん窓口で色々と営業トークを聞いてこられます。
最近少し預入金利は上がってきていますが、まだまだ低金利ですので、窓口の方が勧めてくる商品は魅力的に感じると思います。

でも、本当にそうでしょうか?若くて元気な人にとってメリットがある商品は、高齢者にとってもメリットがあると言えるのでしょうか?
人の寿命は誰にも分かりませんし、いつ病気が見つかるかも分かりません。若い人の場合はまだまだこれからの人生、先は長い訳ですので「時間」がメリットを生み出してくれる可能性が高いと言えます。しかし、高齢者の場合は若い人に比べると「時間」はそう長くはありません。
資産をいくら増やしても使わなければ意味がありませんし、医療費や介護費用でいつ大きなお金が必要になるか分かりません
中途解約をすると元本割れを起こす商品や、複数年の定期預金などは注意が必要です。また、金利が良い商品は、ハイリスクハイリターンの元本保証でないものが主流ですので、年金生活に入られている方にはおすすめとは言えません。

私たちは長年、「資産運用」「資産を増やす」「備える」という言葉を日々耳にして生活して来ています。「貯める」という習慣を持っている人は多いと思います。
でも、「何故お金を貯めて増やしてきたのか」を考えた時、それが「老後のため」だったとしたら、一定の年齢になった段階で「貯める、増やす」から「使う」にシフトしていく事を考えるべきではないでしょうか。

「貯める、増やす」という商品は、簡単には現金化出来ないものがほとんどです。
また、近年株式等の投資をされている方も多いと思いますが、基本的に株はご本人しか売却する事が出来ません認知症などを発症すると、株は売って現金化する事が非常に困難になります
投資信託や定期預金などもそうです。窓口でご本人が手続きをしなければ簡単には解約等の手続きができません。どれもご本人が手続きをしない事には、簡単には動かせない資産です。
因みに、不動産も名義が親御さんであれば、子が売却する事は出来ませんので現金化する事は出来ません。(売却する為には後見人制度の利用等の手続きが必要になり、現行法では以後親御さんの財産管理は一生後見人の管理下におかれます)

また、最近ネットバンキングを使われている方も増えて来ていますし、暗号資産をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。資産はあるけれど、自分しかその存在を知らない場合、これもいざという時に使えない可能性が高い資産となります。

という訳で、一定の年齢を過ぎたら利益を追うよりも「資産はあるのに使えないを回避する事を考える方が重要になってきます

ご自分が窓口に出向かなくても、例えばお子さんに依頼すれば引き出せるように普通預金にある程度の資産は移すなどの準備をしておく。それが、「資産はあるのに使えないリスク回避のための備え」になると考えます。

また、相続税対策に一時払い終身保険をすすめられる事があると思いますが、こちらも簡単に結論を出すのではなく、まずは今後ご自身が一生を終えるまでのキャッシュフローを考える必要があると思います。

一時払いで大きな額を預けてしまって、将来的に生活費に困る事はないのか。保険に入る必要があるほど資産が潤沢にあるのかを客観的に考える必要があります。最近は物価も上昇していますので、ご本人が思うよりも生活費もかかっているかもしれません。私はファイナンシャルプランナーとしてライフプランの作成をしていますが、一生のうちに必要なお金は結構な額になります。いつどのような病気になるのかは誰にも分かりませんので正確な金額の算出は誰にもできませんが、今後生活費や介護費、医療費に必要になる額を予想した上で検討される事をおすすめします。

私がみなさんに良くお伝えするのは「お元気なうちは、生活に困らない範囲で人生を楽しむのが良いと思います」という事です。亡くなった母を思い出していつも思うのですが、元気でなければ食事を楽しむ事も、旅行や買い物に行く事も出来ません。楽しめるうちに楽しんでおく事は本当に大切だと思います。

相続税対策のご相談を受けた時にも「一番の対策はご自身が楽しく使われる事です」とお話しています。増やす事、残す事を考えて、人生の楽しみを諦めてしまっては本末転倒です。相続税は当然の事ながら、資産が少なければ課税がない訳ですし、資産が多ければ多いほど課税は高額になります。子供の為に残してあげたい、というお気持ちはよく分かりますが、ある程度はご自身の為に楽しく使われる事が大切な事だと思います。その為には、闇雲に「これから何があるか分からないから怖くて使えない」ではなく、今後自分にはどれぐらいの資産が必要なのかを具体的に考えてみる事が大切だと思います。いつでもご相談ください。

一定の年齢になったら、「貯める」「増やす」ではなく「使える資産にしておく」。長年習慣としてきた「貯める」を生活に余裕があるのなら「楽しく使う」にシフトする。ぜひ考えてみてください。

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