相続手続きに期限はあるのか?
最近「空き家問題」という言葉を耳にされる方は多いと思います。2023年、日本にある空き家は1293万戸、空き家率は19.4%と言われています。
空き家が増えているのは、相続手続きが進まない、停滞しているのが大きな原因だと思います。
今まで、相続税の納付期限を除いて相続手続きには法律上の期限はありませんでした。
それ故、法律上の期限が無い→先延ばしにする→長い年月が経過→話し合いが困難になる、又は相続人が不明になるという悪循環があちこちで発生したのだと思われます。
この増加し続ける空き家問題を含む相続問題に対し、民法改正が行われました。
今回取り上げるのは、「相続登記の義務化」と「特別受益と寄与分の主張を10年に制限」この2つです。それでは、個別に見ていきましょう。
■相続登記の義務化
「相続登記」とは、相続により所有者の変更があった時に「家の持ち主が誰なのかを登記する」事です。
例えば、父親から家を相続した時点では、登記簿の「所有者」の欄には当然父親の名前が記載されています。父の家を子が相続したら、所有者の欄を子の名前に書き換える。それが相続登記です。相続登記は令和6年4月1日から義務化されます。相続してから3年間放置していると、10万円以下の過料の対象となります。今までは義務ではなかったので、ほったらかしにしている人が多く、持ち主不明物件が多数発生してしまいました。
老朽化した家が崩れかけ、地域住民が怪我をする恐れが出てきて取り壊しの必要があるのに持ち主が対応しない場合、地方自治体が行政代執行を行う事になります。持ち主に代わって、崩れかけた家を役所が解体撤去するのです。登記簿に所有者の名前があれば、その人から役所が解体撤去費用を徴収する事になりますが、相続登記がされておらず所有者が全く分からないという場合、役所は費用を回収する事が出来ません。
先日も、ニュースで行政代執行後、所有者不明で取り壊し費用を税金で支払ったというケースを見ました。
という訳で、令和6年4月1日から責任の所在を明らかにするために、相続発生から3年以内に相続登記をしなければならなくなったのです。
3年以内に誰が家を相続するのか話し合いがつかない場合は、とりあえず「相続人申請登記」を行って遺産分割協議が成立するまでのいわゆる応急処置(これには登記費用がかかりません)をするか、一旦法定相続分通りに登記をし、話し合いがついたら後日また登記する、という事になります。登記には当然その都度費用がかかります。という訳で、相続財産に不動産が含まれている場合、3年以内に遺産分割協議を行い、相続手続きを完了する事をお薦めします。
※令和6年4月1日以前に相続した不動産も、相続登記義務化の対象です
■特別受益と寄与分の主張は10年以内の期限付きに
特別受益や寄与分は、不公平な遺産相続を是正する為の制度です。その主張が出来る期間が2021年4月の民法改正により、相続開始後10年と定められました。
<特別受益とは>
例えば、父親と息子二人の家族があったとします。長男は父親から生前1000万円を贈与されていました。父親が亡くなって4000万円の財産が残されましたが、兄が父の生前に貰っていた1000万円を特別受益として考え、父の遺産総額を5000万円としました。息子二人の法定相続分は1/2なので、一人分の相続は2500万円。兄は既に1000万円貰っているので、今回相続するのは1500万円、弟は2500万円となります。特別受益を考慮しなければ、兄は贈与1000万+相続2000万=3000万円、弟は2000万円の取り分となっていた訳ですから、特別受益の制度により相続の不公平は是正された訳です。
<寄与分とは>
亡くなった方の生前に、その方の財産の維持または増加に関して一定の貢献をした人に対し、その貢献度に応じて相続の分配を増やす制度です。例えば、事業資金を援助していた、家業に長年従事していた等が挙げられます。
という訳で、相続手続きに期限があるのか?と問われたら
- 相続税の納付期限は、相続の開始があった事を知った日の翌日から10か月以内
- 相続財産に不動産が含まれていたら令和6年4月1日以降、相続登記は3年以内
(義務化前に不動産を相続している場合は令和6年4月1日又は相続による所有権の取得を知った日のいずれか遅い日から3年の間)
- 遺産分割協議で特別の寄与、寄与分を主張したい場合は相続開始後10年以内
という答えになります。
相続が発生したら、遺言書を探し、なければ相続人を特定する事から始めます。何故なら、遺産分割協議は相続人全員で行わなければ有効ではないからです。相続人が一人でも欠けるとその話し合いは無効となります。(相続人の確認は、遺言書があっても必要です)
相続手続きのご相談を受けるたびに思いますが、相続人の特定はそれほど簡単ではありません。数次相続、代襲相続の発生によりご相談者が考えられている以上の相続人が存在しているケースが多く見られます。
相続が発生しましたら、いつでもご相談ください。