相続時の注意点
人が亡くなると、相続が発生します。民法が定める法定相続人は、相続をするのか、しないのかを選択する事になります。この「相続をする」と決める事を「相続の承認」と呼びます。逆に、相続をしないとするのが「相続の放棄」です。
「相続の承認」をするのか、しないのか。それが問題となるのは、主に故人が残した遺産がプラスのものだけではない場合です。もし多額の借金を抱えている人が亡くなった場合に相続の承認をすると、その借金は相続人にやってきます。
「相続放棄」については、以前このブログに書いていますので、そちらをお読みください。(相続放棄のお話し)
因みに、相続人の間で「相続放棄する」と伝えるだけでは法的な「相続放棄」にはなりませんのでご注意ください。
それでは今回は、「相続の承認」についてお話したいと思います。
何をすると「承認」した事になるのでしょうか。
相続の承認は二つに分けられています。一番多いのは「単純承認」ですが、「限定承認」も民法では定められています。
【単純承認】
亡くなられた方の財産を全て相続するのが単純承認です。単純承認をする時は、「単純承認します」という事をどこかに届け出るような必要はありません。承認については何もしなくて良いのです。
とはいえ、「全てを相続する」訳ですので、借金等がないかを調べる等、内容を把握しておく必要があります。プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合は単純承認ではなく、相続放棄を選ばれる方が多いと思います。
また、故人が保証人や連帯保証人になっている場合は、その地位も相続する事になりますので注意が必要です。
【限定承認】
亡くなられた方の遺産の内容が不明な場合、プラスの財産が多いのか、マイナスの財産が多いのか、つまり単純承認をして良いのかどうかが分からない状況に陥ります。
相続放棄は自分に相続があった事を知った時から3か月以内に行わなければならないので、3か月以内に遺産の詳細が分からない場合、どうするのかという事になります。その場合の選択肢としてあるのが「限定承認」です。こちらも3か月以内に行わなければなりません。
限定承認は、相続人全員で家庭裁判所に限定承認の申述を行います。これをすると、マイナス財産の返済をプラスの財産を上限とする事が出来ます。
例えば、5000万円の借金があり預貯金などの遺産が1000万円しかない場合、4000万円の不足となります。単純承認をすると不足分の4000万円を相続人が支払う義務を負う事になりますが、限定承認をすれば1000万円を返済すれば残りの4000万円の返済はしなくて良くなります。
ここまで読まれた方は、遺産の内容が分からない状況で「単純承認」をするのは怖いと思われたかと思います。
相続の承認をする時には、良く考えてから行うべきだという事がお分かり頂けたと思います。
それでは「単純承認した」ことになること、ならないことを具体的にみていきたいと思います。
民法は、「相続財産の全部又は一部を相続人が処分した場合は単純承認したものとみなす」と定めています。
【単純承認に該当する】
・自分に相続があった事を知ってから相続放棄等をせずに3か月が経過した時
・故人の預貯金口座のお金を使ったり、自己の預貯金口座に入金した場合
・故人が病院で亡くなった時の入院費等を、故人の預貯金から支払った場合
(相続財産の処分に該当するという判例があります)
・故人が延滞していた公共料金の支払いを故人の預貯金から支払った場合
・経済的価値のある遺品を持ち帰った場合
・不動産、車などの名義変更をした場合
・故人の不動産を売却した場合 など
【単純承認に該当しない】
・故人の葬儀費用を故人の預貯金から支払った場合
(故人の社会的地位や人間関係において適切な規模の葬儀である場合)
・相続人が受取人として指定されている死亡保険金の受領
(そもそも、死後に支払われる死亡保険金は相続財産に該当しない) など
要注意なのは「故人の医療費を故人の預貯金から支払った場合」ではないかと思います。ご自宅で亡くなられる方は昨今多くはなく、病院で亡くなられる方が大多数だと思います。当然、入院費、医療費の請求が病院から来ますが、この時、単純承認を保留するなら、故人の預貯金から支払うのではなく、相続人が自己の財産から支払ってください。
(入院費を相続人が自己の財産から支払った場合は単純承認には当たらないという判例があります)
また、延滞していた公共料金の支払いも同様に相続人が自己の財産から支払ってください。
お一人様が増加傾向にある今、相続は思わぬところから来る可能性があります。
亡くなられたのがご両親ならある程度資産状況の把握が出来ている方も多いと思いますが、叔父叔母の資産までは分からないのが一般的ではないかと思います。
亡くなられた方の遺産の状況が良く分からない状況で、相続人となる方は今後増えていくと予想されます。
叔父叔母が亡くなり、連絡があり駆けつけた時、入院費や葬儀費用の請求書を渡されたとしたら叔父叔母の財産から支払いたいと思う方は多いと思います。その時に、今回お話した単純承認の件を思い出して頂ければと思います。
相続放棄は増加傾向にあります。因みに、令和5年の相続放棄の件数は28万2785件と過去最高でした。
死者数の増加に伴い、今後も相続放棄の数は増えていくと思います。
相続が発生した時、後々あなたの想定外の事態に陥らないように、「相続の承認」と「相続の放棄」について覚えておいて頂ければと思います。