そもそも遺産分割協議とは?

人が亡くなり相続が開始した時、遺産の分配を行う事になります。まず初めに行うのは、遺言書の確認です。遺言書があれば遺産の分配は、基本的にその内容の通り行います。
では、遺言書がなければどうするのか。法定相続人全員で遺産の分け方を話し合う。これが「遺産分割協議」です。

日本では、約1割の人しか遺言書を作成していないという調査結果がありますので、遺言書がないのが一般的と言えます。つまり、ほとんどの相続手続は「遺産分割協議」で話し合った内容に基づいて行われているという事になります。遺言書が無く、遺産分割協議もしない場合は法定相続分通りの相続となりますが、遺産は簡単に分割出来る預貯金だけでなく、不動産、動産、株式等も含まれることが多いですから、どう分けるのかを話し合う事になると思います。

相続は、人が亡くなると同時に開始します。そして、その相続分の割合は民法で定められています。つまり「相続人が話し合うまで相続分は決まらない」のではなく、「相続開始と同時に法定相続人には民法が定めた割合で相続分が決められている」のです。(相続人が相続する事を承認するまでは、相続開始を知った時から3か月以内であれば相続を放棄する事が可能です)
遺言書がある場合、相続開始と同時に法定相続分ではなく亡くなられた方が書かれた内容による相続分での相続の開始となります。(遺留分、相続人全員の合意による相続分の変更など、法定相続人が異議を唱えれば変更の余地があります)

では、「遺産分割協議」とはどういうものでしょうか。これは相続人が全員で話し合い、合意すれば法定相続分とは違う相続内容に出来るというものです。協議がまとまった段階で、「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名捺印します。相続手続を行う時には、この遺産分割協議書が必要になります。

先に述べたように、民法は相続発生と同時に相続人の相続割合を定めている訳ですので、「遺産分割協議」は当然の事ながら、相続人全員で行わなければなりません全員で行わないという事は、人の持ち物を勝手に他の人が分けてしまう事になりますので、当然それは法的に無効となります。
例えば、親御さんが亡くなり、兄弟姉妹が相続人であった場合、親御さんの死と同時に兄弟姉妹全員が平等の割合で相続しているにもかかわらず、一人が勝手に相続割合を決める、一部の兄弟姉妹だけで相続割合を決めて他の兄弟姉妹に伝える、というような事は法的に無効です。

さて、ここで重要になってくるのが「法定相続人の確認」です。
兄弟姉妹のみが法定相続人と認識していたのに、亡くなった親御さんの出生から死亡までの全ての戸籍を取得し確認してみたら、親御さんは再婚しており、前婚の時の子供がいた、婚姻はしていないが認知した子が居た、という場合はその人も当然相続人であり、故人の「子」ですので現婚の子と平等の相続分となります。当然その方達を含む全員で協議しなければなりません。
相続登記や金融機関での相続手続では、故人の全戸籍の確認が必ず行われますので居なかった事には当然の事ながら出来ません。
ところで、親より先に亡くなった子(逆縁)に子供が居る場合はどうなるのでしょうか。この場合は、亡くなった子の子供が代襲相続します。ご両親が亡くなった時、兄弟姉妹に故人が居る場合は、あなたからみて甥姪が相続人となります。

また、故人の子以外にも、法定相続人が相続人の認識と違ってくる場合があります。それは、不動産の名義が故人ではない場合です
相続手続の中で、故人の所有していた家の登記簿謄本(全部事項証明書)を取寄せたところ、権利部(甲区)の「権利者その他の事項」の欄に、故人ではない人の名前があったとします。

例えば、父親が亡くなった時に住んでいた家の登記簿謄本を確認したところ、権利者の欄に亡くなった祖父の名前があったとすると、その家の所有者は祖父であるという事になります。
この場合、家に関しては祖父の相続人全員が相続している状況のまま、父が住んでいたという事を意味します。
家の相続人は、権利者と記された祖父とその妻である祖母が既に他界していれば、祖父の子である父と父の兄弟姉妹全員が相続人、兄弟姉妹の中に亡くなられた方がいらっしゃれば、その子供達も相続人という事になります。
という訳で、父親の残した家以外の遺産については父の相続人である兄弟姉妹全員で遺産分割協議を行い家については祖父の相続人全員で遺産分割協議を行う事となります。

例えば、祖父には3人の子が居たとします。今回亡くなった人は長男(子は2人)で、長男より先に亡くなった次男(子が3人)、そして存命中の長女(子は2人)がいたとしましょう。祖父の妻である祖母は祖父より先に他界しています。

祖父が亡くなった時の相続人は長男、次男、長女の3人です。祖父が亡くなった時に相続手続をしていればよかったのですが、手続きをしないまま、次男が他界し、長男が他界し、祖父の子は長女一人となりました。
ですが、長男、次男にはそれぞれ子供が居ますので、親の相続は子が代襲します。これが「代襲相続」です。

という訳で、現在の家の相続人は長男の子2人、次男の子3人、長女の合計6人になります。
祖父が亡くなった時点での3人の子の相続分は各1/3。代襲相続は親の相続分を相続する事になるので、長男の子は1/3を2人で分割して各1/6、次男の子は3人で分割して各1/9、長女は1/3の相続分となります。
と、ここまで読まれた方は、ややこしい、面倒だと思われるのではないでしょうか。不動産の相続手続は放置しておくと後々、子の世代が苦労する事になるのです。

さて、相続人が明らかになったので、家の相続について、普通であれば6人で「遺産分割協議」を行います。
しかし6人での話し合いは面倒なので、法定相続分の通りで良いとした場合は、先に述べた割合での6人の共有となります。1つの家の所有者が6人。しかも持分は1/6,1/9,1/3とバラバラです。この場合、後々どんな問題が出てくるのでしょうか。

話し合わずに済むのなら共有は楽だと思う方もいるかもしれませんが、家の売却や大規模修繕の時には全員の同意が必要になります。つまり、不動産を売るに売れない、という事になりかねません。相続人が明らかになった時点で協議をしない事は、ただ単に問題を先送りしただけと言える結果となります。

更に、6人の相続人に含まれている長女は高齢と推測されますので、長女が亡くなった段階でまた家の1/3を長女の相続人が相続する事となり、長女の夫は亡くなっていたとしても子2人が相続する事になるので、6人の共有から8人に増えてしまう可能性があります。
また、高齢の相続人が居る場合、その方が認知症を発症した段階で契約能力が無いという事になりますので、家の売却等は簡単には出来なくなります。
という訳で、相続は全員が話し合える時に話し合う、遺産分割協議は先送りにせず行うに限ります

【遺産分割協議の注意点】
・最初に遺言書が無い事を確認する
・法定相続人全員で行う(故人の全戸籍を取寄せ、相続人を確認)
・相続人に意思能力が必要である(認知症等を発症していない等)
・遺産の内容を確認する(特に不動産は登記されている権利者を確認)
・遺産分割協議がまとまれば遺産分割協議書を作成する
・遺産分割協議の期限はないが、相続税の期限は相続開始から10カ月、寄与分等の事項は10年以内である事を考慮する
・相続登記が義務化されたので、不動産がある場合は速やかに着手する詳細はこちら

相続は遺産の額に関わらず、行う手続きは同じです。遺産が多いから遺産分割協議が必要、少なければ不要という訳にはいきません。また、遺産の額に関わらず相続で揉めるケースは多いものです。
遺産分割協議は相続人全員が元気なうちに行う必要がありますので、先送りはせず着手するようにしてください。

揉める相続は弁護士案件となりますが、相続人の確定や遺産分割協議がまとまった後に作成する「遺産分割協議書」の作成等は行政書士も取り扱っています。ご依頼があれば金融機関等の相続手続も行っています。
いつでもご相談ください。

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