相続税の配偶者控除 その2
前回、相続税の配偶者控除を利用すれば相続税を軽減できるというお話しをしました。
それなら、片親が亡くなった時には残された親が全てを相続した方が相続税を軽減できるのではないかと思われる方が多いと思います。本当にそうでしょうか。
それでは、前回の例を使って、続きを考えてみましょう。
【例】
前回、父親の遺産2億円を母親が全て相続しました。(1次相続)
数年後母が亡くなりました。(2次相続)母は自分の資産で生活を賄えたので、父の2億円は全て残されました。
【妻が夫の遺産を全額相続した後、亡くなった場合】
遺産総額 :2億円
法定相続人:長男、長女
法定相続分:長男、長女(各1/2)
相続税控除額=3000万円+(法定相続人2人×600万円)=4200万円
相続税課税対象額=遺産総額2億円-相続税控除額4200万円=1億5800万円
「法定相続分に応ずる取得金額」
長男:1億5800万円×1/2=7900万円
長女:1億5800万円×1/2=7900万円
「相続税額」
<相続税 速算表より>
1億円以下=税率30% 控除額700万円
長男:7900万円×30%-700万円=1670万円
長女:7900万円×30%-700万円=1670万円
相続税の合計=3340万円
なかなかの税額だと思われるのではないでしょうか。
次に、最初の相続で、母が1億円、子が各5000万円の法定相続分で相続していた場合を考えてみましょう。
【妻が夫の遺産を法定相続分相続した後、亡くなった場合】
遺産総額 :1億円
法定相続人:長男、長女
法定相続分:長男、長女(各1/2)
相続税控除額=3000万円+(法定相続人2人×600万円)=4200万円
相続税課税対象額=遺産総額1億円-相続税控除額4200万円=5800万円
「法定相続分に応ずる取得金額」
長男: 5800万円×1/2=2900万円
長女: 5800万円×1/2=2900万円
「相続税額」
<相続税 速算表より>
3000万円以下=税率15% 控除額50万円
長男:2900万円×15%-50万円=385万円
長女:2900万円×15%-50万円=385万円
相続税の合計=770万円
それでは、相続税をトータルで考えてみましょう。
【母親が2億円を全て相続した場合】
1次相続の相続税額=540万円
2次相続の相続税額=3340万円
相続税総額=3880万円
【各相続人が法定相続分で相続した場合】
1次相続の相続税額=1350万円
2次相続の相続税額=770万円
相続税総額=2120万円
という訳で、一見相続税の配偶者控除を最大限利用した方が相続税の節税が出来るように見えますが、ご両親がお二人とも亡くなられた時には法定相続人の数は減り、配偶者控除もなくなる為、そうとは言えないという事が見えてきました。一次相続時にある程度家族全員が相続して相続税を払った方が、二次相続時の節税になる場合があるという事がお分かり頂けたかと思います。
例としてあげたのは、2億円という資産家のケースでしたが、一般的なご家庭の場合でも相続人が少なく相続税控除額以上に遺産があると予想される場合には、2次相続を考慮して相続分割を考えた方が良いと言えます。
もう少し身近な額にして考えてみましょう。
【例】
父親の遺産5000万円
相続人:妻、長女
相続分:妻(1/2)、長女(1/2)
【1次相続で妻が全額を相続した場合】
<1次相続>
相続税控除額=3000万円+(法定相続人2人×600万円)=4200万円
相続税課税対象額=遺産総額5000万円-相続税控除額4200万円=800万円
「法定相続分に応ずる取得金額」
妻 : 800万円×1/2=400万円
長女: 800万円×1/2=400万円
「相続税額」
<相続税 速算表より>
1000万円以下=税率10% 控除額なし
相続税=400万円×10%=40万円
相続税総額=40万円+40万円=80万円
妻が全て相続したので、配偶者控除の申請をして相続税は0円
<2次相続>
遺産は1次と変わらず5000万円だった場合
相続税控除額=3000万円+(法定相続人1人×600万円)=3600万円
相続税課税対象額=遺産総額5000万円-相続税控除額3600万円=1400万円
「相続税額」
<相続税 速算表より>
1000万から3000万円以下=税率15% 控除額50万円
相続税=1400万円×15%-50万円=160万円
1次&二次相続の相続税合計 160万円
【1次相続で相続人全員が法定相続分を相続した場合】
<1次相続>
相続税控除額=3000万円+(法定相続人2人×600万円)=4200万円
相続税課税対象額=遺産総額5000万円-相続税控除額4200万円=800万円
「法定相続分に応ずる取得金額」
妻 : 800万円×1/2=400万円
長女: 800万円×1/2=400万円
<相続税 速算表より>
1000万円以下=税率10% 控除額なし
相続税=400万円×10%=40万円
妻は配偶者控除の申請をして相続税は0円
相続税総額=40万円(長女分)
<2次相続>
遺産は母が受け取った父の遺産2500万円だった場合
相続税控除額=3000万円+(法定相続人1人×600万円)=3600万円
相続税課税対象額=遺産総額2500万円-相続税控除額3600万円=-1100万円
相続税=0円
1次&二次相続の相続税合計 40万円
という訳で相続人が少ない場合、2次相続の相続税控除額が少なくなる一方、遺産はご両親お二人分が来るという事になる事が多いので、相続税を考えた時、配偶者控除を最大限利用する為に母親が全て相続するというのはプラスとばかりは言えません。
相続税の課税対象になる可能性がある場合は、一次相続である程度全員が相続しておいた方が将来的に節税になる場合が多いです。特に相続税控除額が少なくなる一人っ子の相続は注意が必要です。とはいえ、残された配偶者が不自由なく生活していける事が節税対策よりも重要ですので、全ては残された配偶者が必要な資産を確保した上でのお話しです。
当事務所のブログにしては数字が多い回が2回ほど続きました。良く分からない!と思われる方も多いかと思います。税金のお話しはややこしいものです。
以前お伝えしましたが、ファイナンシャルプランナーは、個別具体的な相続税の計算や国税庁への申告は出来ませんが、このブログにあるような一般的な相続税の計算方法をお知らせする事は出来ますし、相続税対策等についてのご相談、ご提案をすることが出来ます。
当事務所では二次相続(親御さんのお一人が亡くなられた後に、残された親御さんが亡くなられた時)と相続税を考慮した相続についてのご提案もしています。残された配偶者のライフプランを作成し、一次相続ではどのような分配とするのが良いのか等のご提案をしています。
もちろん、行政書士として法定相続人の確認、「遺言書」や「遺産分割協議書」の作成のご依頼もお受けしています。
法定相続人の確認は、相続税の基礎控除額に関わる大事なポイントです。正確に把握する必要があります。
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