遺産分割協議について知っておきたいこと
ご家族が亡くなった時、遺言書がなければ一般的には「遺産分割協議」を行います。
公益財団法人生命保険文化センターの調査によると60歳~79歳の人で遺言書を既に作成した人の割合は約3.5%と非常に低く、この数字からすると、9割以上の相続において相続人による「遺産分割協議」が行われていると考えられます。
遺産分割協議をしないとどうなるのか
相続が始まった時、遺言書がなければ法定相続人は法定相続分を相続します。相続人の意思にかかわらず、民法が定める割合で相続が発生します。
つまり、遺産分割協議は法定相続分ではない相続の分配をしたい時に相続人が話し合いで決める事ですので、しなければならないものではありません。
相続割合の例
夫が死亡、妻Aと子B、Cが相続人の場合
妻:1/2
子:1/2 = B1/4、C1/4
全員がこの割合で良しとするなら、遺産分割協議はせず、そのまま相続手続に入る事が出来ます。
ですが、実際には誰がどの資産を相続するのかを話し合うことになると思います。何故なら遺産は預貯金など分割が容易なものだけではないからです。
遺産分割協議がまとまらないとどうなるのか
遺産分割協議は相続人全員で話し合う訳ですが、話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所での調停・審判に持ち込まれる事になります。
令和6年の「司法統計年報」によると、持ち込まれた数は一年間で15,379件、認容・調停が成立した数は7,903件となっています。
認容・調停が成立した相続の内訳をみると、1000万円以下の相続が35.6%、1000万円超5000万円以下の相続が42.4%ですので、約8割が5000万円以下の相続でした。
ここから見えてくるのは、資産家の相続だけがもめている訳ではなく、一般的な相続ももめているという事実です。
遺産分割協議を行うには
それでは、実際に遺産分割協議を行うには何が必要なのでしょうか。
- 相続人の確定、相続人全員への連絡
- 遺産の確認、財産目録の作成
遺産分割協議は、「相続人全員で行う」事が民法で定められています。その為には故人の出生から死亡までの全戸籍を取寄せ、法定相続人の確認を行います。
一人でも協議に参加しない人がいれば、その協議は無効です。
次に「遺産」の確認、財産目録の作成です。兄弟姉妹間でもめごとが生じがちなのか、この何を「遺産」の対象とするのかです。
いつの時点の遺産が対象なのか
遺産分割協議における「遺産」とはいつの時点の遺産なのでしょうか?
亡くなられた時点なのでしょうか?それとも遺産分割時なのでしょうか?
不動産、株など遺産の評価額は変動します。また、動産等は火事や災害で滅失するものもあります。
家庭裁判所の審判では「遺産分割時説」が採用されています。
遺産分割における評価額は遺産分割時のものとする。相続発生時には存在していたが、遺産分割協議時には滅失しているものは対象としない、というものです。とはいえ、相続人間の話し合いにより、全員が納得すれば、遺産分割時としなくても問題はありません。
遺産分割協議における遺産には何が該当するのか
遺産と聞いて思い浮かぶのは、亡くなられた人が所有していた不動産、預貯金、株、各種会員権、動産等だと思います。相続財産はプラスの財産だけではなく、借金などのマイナス財産も含まれます。因みに、亡くなられた方がご自身で保険料を支払われていた保険の死亡保険金は、故人が死亡した事により保険会社から支払われるものですので、故人の遺産ではありません。故人の遺産ではなく、受取人のものです。
ところで、何を遺産とするのかについての話し合いでは、「特別受益」の持ち戻しが問題になりがちです。
兄弟姉妹間のもめごとになりやすいのは、この「特別受益」です。
特別受益とは
特定の相続人が故人から生前、多額の援助を受けた。それを「特別受益」と呼びます。
例えば、結婚資金や住宅購入資金の援助等です。その他、留学費用、開業資金、借金の肩代わり等も該当します。特別受益には死因贈与、遺贈も該当しますが、今回は遺産分割協議における特別受益ですので、生前贈与について考えます。
遺産分割協議における特別受益は何十年も前に援助を受けていても、他の相続人が主張すれば対象となります。
この場合、特別受益分を「持ち戻し」して遺産の分配を考える事になります。
特別受益の持ち戻しの例
遺産6000万円について2人兄弟で遺産分割協議を行った
法定相続分=6000万円÷2人=3000万円×2人
しかし、長男は親から不動産購入時に1000万円を貰っていた為、次男がそれは特別受益に該当するので持ち戻しをすべきだと主張した
この場合、1000万円が遺産6000万円に持ち戻し(加算)されます。
持ち戻し後の遺産=6000万円+1000万=7000万円
法定相続分=7000万円÷2人=3500万円×2人
その結果、長男と次男の相続分は次の通りになりました。
長男⇒3500万円-1000万円=2500万円
次男⇒3500万円
持ち戻しが無かった場合、長男は3000万円でしたが、持ち戻し後は2500万円の相続。
次男は3000万円が持ち戻し後は3500万円の相続となりました。
例では兄弟の内の一人に特別受益があったとしていますが、兄弟姉妹間で各自が受けた特別受益について言い争いになったという話も聞きます。なかなか難しい問題だと思います。
また、昔の援助を特別受益とする場合、具体的な額の証明は難しいという事もあり、なかなか話し合いが先に進まない可能性もあります。
因みに、相続人間で争いが生じた場合には、行政書士や司法書士ではなく、弁護士案件となります。
寄与分とは
「特別受益」についてみてきましたが、この他に問題になるものとして「寄与分」があります。
寄与分とは「故人の財産の維持や増加について、特別の寄与をした相続人に対して認められる相続分の増額」の事です。
親の介護をしていた方は、自分には「寄与分」があると思われると思いますが、「寄与分」の条件はなかなかハードルが高いものです。(介護と相続についてはこちら)
寄与分が認められるには、次の5つの要件を全て満たさなければなりません。
寄与分の5つの要件
- 相続人であること
- 故人の財産の維持または増加に貢献したこと
- 通常期待される程度を超える「特別」な寄与行為であること
- 無償で寄与行為をしたこと
- 一定の期間以上継続して貢献したこと
その上で、他の相続人に寄与分の主張を行い、認められた場合のみ寄与分が加算されます。
遺産分割協議でもめないように用意しておくもの
故人と同居していたり、介護をしていた相続人は、故人の財産管理を頼まれていた事が多いと思います。頼まれて預金を引き出し、医療費や介護費用、買い物等の支払いをその中から行う事はよくあります。
故人の介護などをしていたのに、後々、遺産分割協議の時に他の相続人から使い込み等を疑われるといった事は心外だと思います。
明細書を取っておく、簡単な帳簿を作っておく事は、後々自分を護るものになります。いざという時の準備をしておく事をおすすめします。
遺産分割協議の期限
遺産分割協議に期限がありませんが、民法の改正により特別受益、寄与分の主張が出来るのは原則10年となりました。という訳で、実際には相続開始から10年以内と考えるのが良いと思います。
因みに相続税の申告は、被相続人(亡くなった人)が死亡した事を知った日の翌日から10か月以内です。また、相続税の負担を軽減させる為の特例である「小規模宅地の特例」等を受ける場合にも10か月以内の申告が必要となります。遺産分割協議がまとまらなければ、とりあえず法定相続分での相続税の納付となりますし、相続税の特例を受けられないという事になってきます。
という訳で、遺産と法定相続人を確認し、相続税の基礎控除額を超える相続だった場合。
つまり相続税の課税対象となる相続である場合には、10か月以内に遺産分割協議をまとめるのが一番良いと言えます。(相続税についてはこちら)
また、もし残された遺産よりも借金の方が多かった場合、相続放棄を考える事になるかと思います。相続放棄には期限があり、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です。
遺産分割協議は急ぎませんが、こちらは3か月と短期間ですので、相続財産の確認だけは出来るだけ早く行う事をおすすめします。
遺産分割協議書の作成
相続人全員で、遺産分割協議の内容について同意が得られたら、「遺産分割協議書」を作成します。
誰が、何を相続するのかを書き記し、相続人全員が署名、押印(実印)をします。
この遺産分割協議書は、相続人の数だけ作成し、全員がそのすべてに署名押印した上で各自保管する事になります。
相続登記、金融機関での相続手続には、この「遺産分割協議書」が必要になります。そして相続手続を行う際には、印鑑証明書の提出も必要になります。
印鑑登録をしていない方は、相続が発生したらまずはお住まいの地方自治体で印鑑登録をしておくことをおすすめします。
なお、相続人の中に海外在住の方がいらっしゃる場合などには、書類のやりとりが困難ですので「遺産分割証明書」を作成する場合もあります。
最後に
遺産分割協議は、協議の準備段階から苦労する場合があります。
相続人を特定する為には民法の知識が必要です。ご依頼を受けた時、最初に伺っていた相続人とお調べした相続人の数が違う事はしばしば起こっています。
また、相続人の中に認知症の方、未成年者、海外在住の方がいらっしゃるなど、色々な理由により、相続人全員での話し合いがなかなか始められないという事は実際に起こっています。
そして、遺産分割協議は法定相続人全員で行わなければ無効です。
次に遺産の特定が困難である事もよくあります。遺産の把握も故人が財産目録を残してくれていればよいのですが、何も残っていない場合は確認作業が大変です。
昔であれば、通帳や郵便物から辿る事が出来ました。
しかし、最近ではネットバンクやネット証券を利用する方も増えて来ています。暗号資産を保有している方もいらっしゃいます。デジタル化が進むと通帳も先方からの郵便物もない、全てデジタルで故人のIDとパスワードが分からないと確認できないという事になりますので、今後ますます相続財産を把握する事が困難になっていくと思われます。
日本ではほとんどの人が遺言書を作成していませんが、遺族のために遺言書の作成は必要だと思います。
そして、もしまだ遺言書を書くのは早いと思われる場合は、せめて財産目録だけでも作っておく事をおすすめします。デジタル資産については、その詳細もお忘れなく。
当事務所では、相続人の特定、遺産分割協議書の作成、金融機関でのお手続きなど相続手続のご依頼をお受けしています。
また、ファイナンシャルプランナーとしてご遺族が今後どれぐらい生活費が必要になるのか(ライフプランの作成)等のお金のお話しや、相続税に関する一般的なご相談もお受けしています。
相続、そして遺言書作成についての疑問やご相談は、いつでもお問い合わせください。



